2007年 03月 03日
<地域から平和を考え、平和を創っていくために> |
現在、北杜市では「北杜市国民保護計画」(北杜市国民?名称からして違和感があります)が作成され、県との協議が進んでいます。県との協議が済めば、3月議会に報告されることになっています。地域のあり方を根底から変えることにもなる「国民保護計画」が、市民に十分な情報が提供されないまま、作られてしまうことになるのではないかと、強く危惧しています。
「国民保護計画」の根拠法である「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」、いわゆる「国民保護法」は、2004年4月に国会に提出され、審議されました。2004年4月は、イラク・ファルージャの大虐殺、そして自衛隊のイラク派兵を背景にした日本人3人が拉致された時期です。この法律によって自治体に保護計画作成が義務付けられています。
●地方分権に逆行し、民意が反映されないトップダウンのシステム
国民保護計画は議会での審議を経ず、民意がほとんど反映されない完全なトップダウンのシステムによって作られます。まず、政府が「国民保護に関する基本指針」を策定し、これに基づき都道府県が「国民保護計画」を策定し、それに基づいて市町村が「国民保護計画」を策定することになっています。さらに、所轄の総務省消防庁が、お手本となる「モデル計画」を呈示しています。市町村の計画は2006年度中となっているので、ほとんどがこの3月に作成されます。
● 北杜市の場合
内容を審議するのは議会ではなく「北杜市国民保護協議会」です。この協議会を置く条例は、昨年の3月議会で賛成多数で可決されました。民意については、素案の段階で、パブリックコメントを採用する自治体も少なくないのですが、北杜市の場合は総務課の担当者に聞いたところ、「北杜市国民保護協議会」の委員には団体代表が入っているので、その人たちからの意見が市民の意見として、パブコメはしなかったということでした。担当者は「どうせ、県との協議で枠内に納めるから、市民に意見を出してもらっても採用できないし、大した意見も出なかった」との返答でした。
唯一市民が意見を出せる「協議会」で、どのような審議がされたか、会議録の開示を請求しましたが、会議録は作成していないということでした!その後、担当者との話し合いの結果、「北杜市国民保護計画の概要」「協議会次第」「協議会委員名簿(保護法では自衛官も委員になれます)」については、市のHPに来週中には掲載されることになりました。みなさんぜひ見てください。
● 何から国民を保護するの?
国民保護計画は、①着上陸侵攻 ②航空機による攻撃 ③弾道ミサイル攻撃 ④ゲリラ・特殊部隊攻撃という4種の「武力攻撃事態の類型」と、⑤原子力事業所等の破壊、石油コンビナートの爆破等 ⑥大規模集客施設や駅の爆破等 ⑦炭そ菌やサリンの大量散布等(NBCテロ)
⑧航空機による自爆テロ等の4種の「緊急対処事態の類型」を対象として、国民の保護施策を定めるものですが、地域によって原発がない地域もあり、ほとんどの地域に当てはまるのが「弾道ミサイル攻撃」です。北杜市に弾道ミサイルが着弾するとの想定ですが、住民の保護方法は政府指針では、「屋内に避難させる」というものです。しかし、どこに落ちるかも分からないし、屋内だろうが、落ちたら防げるわけがないのです。
北杜市の担当者も、作成中の計画案は現実的でないと苦笑いしていました。さらに、地理的記述を除けば、県の計画と一字一句違わないと思われる計画案を市は、コンサルタント会社に外注しています。
●さまざまな問題点が
日本国憲法で侵すことのできない永久の権利として保障されている基本的人権が制約されるのではないか、避難訓練や避難演習が強制されることになるのではないか、平時において、武力攻撃に基づく訓練や演習を重ねることは、周辺アジアの国々に警戒感を喚起するのではないか、など、「国民保護計画」には、いくつもの懸念があります。中でも、自衛隊が住民の避難誘導に当たることについて、国際人道法の一つであるジュネーブ条約追加議定書(�)の軍民分離の原則に抵触する、という指摘がされています。
●地域から平和を創る教材に
荒唐無稽な計画であっても、いったん発動されれば、地域コミュニティ、人と人との信頼関係に大きな影響を与える保護計画です。今後、「北杜市国民保護計画」が明らかにされた段階で、学習会を行い、内容を検証していく必要を感じます。そして市に対しても、住民の生命・財産を守る立場から、この計画が矛盾しないのかを問い、市民、自治体が一緒になって、地域から平和を作っていく努力が大切であることを、共通認識として持ちたいと思います。足元から、身近なことから平和を考える上で、この「国民保護計画」はとても良い教科書ではないでしょうか。
ちなみに、長崎県の計画には、「長崎県民は、安全で幸福な生活と、自由で平和な社会が永遠に維持されることを念願している。国民の安全を確保し平和を維持するためには、国において、諸外国との友好に努め、一層の外交努力が払われることが何よりも重要であり、県としても、今後とも平和へのはたらきかけを行っていくものである」との記述があり、広島県、兵庫県も平和への努力を明文化しているとのことです。
さまざまな武力攻撃から国民を守るということ自体、日本国憲法の平和主義と相容れないものです。にもかかわらず、なぜ自治体に、末端の地域住民を巻き込む「保護計画」を作らせるのか、自分の足元に起きていることを、改憲の動きやアメリカへの協力や世界情勢との関連で市民自身が洞察することが重要な気がします。このところ、分かりやすいことがもてはやされた
り、難しいことは考えても仕方がないという、「思考停止」の甘い誘惑が蔓延するなかで、難しい問題や複雑なことを、難しい問題として複雑なこととして“思考する体力”が市民に要求されていると、つくづく感じます。
森井雅子
「国民保護計画」の根拠法である「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」、いわゆる「国民保護法」は、2004年4月に国会に提出され、審議されました。2004年4月は、イラク・ファルージャの大虐殺、そして自衛隊のイラク派兵を背景にした日本人3人が拉致された時期です。この法律によって自治体に保護計画作成が義務付けられています。
●地方分権に逆行し、民意が反映されないトップダウンのシステム
国民保護計画は議会での審議を経ず、民意がほとんど反映されない完全なトップダウンのシステムによって作られます。まず、政府が「国民保護に関する基本指針」を策定し、これに基づき都道府県が「国民保護計画」を策定し、それに基づいて市町村が「国民保護計画」を策定することになっています。さらに、所轄の総務省消防庁が、お手本となる「モデル計画」を呈示しています。市町村の計画は2006年度中となっているので、ほとんどがこの3月に作成されます。
● 北杜市の場合
内容を審議するのは議会ではなく「北杜市国民保護協議会」です。この協議会を置く条例は、昨年の3月議会で賛成多数で可決されました。民意については、素案の段階で、パブリックコメントを採用する自治体も少なくないのですが、北杜市の場合は総務課の担当者に聞いたところ、「北杜市国民保護協議会」の委員には団体代表が入っているので、その人たちからの意見が市民の意見として、パブコメはしなかったということでした。担当者は「どうせ、県との協議で枠内に納めるから、市民に意見を出してもらっても採用できないし、大した意見も出なかった」との返答でした。
唯一市民が意見を出せる「協議会」で、どのような審議がされたか、会議録の開示を請求しましたが、会議録は作成していないということでした!その後、担当者との話し合いの結果、「北杜市国民保護計画の概要」「協議会次第」「協議会委員名簿(保護法では自衛官も委員になれます)」については、市のHPに来週中には掲載されることになりました。みなさんぜひ見てください。
● 何から国民を保護するの?
国民保護計画は、①着上陸侵攻 ②航空機による攻撃 ③弾道ミサイル攻撃 ④ゲリラ・特殊部隊攻撃という4種の「武力攻撃事態の類型」と、⑤原子力事業所等の破壊、石油コンビナートの爆破等 ⑥大規模集客施設や駅の爆破等 ⑦炭そ菌やサリンの大量散布等(NBCテロ)
⑧航空機による自爆テロ等の4種の「緊急対処事態の類型」を対象として、国民の保護施策を定めるものですが、地域によって原発がない地域もあり、ほとんどの地域に当てはまるのが「弾道ミサイル攻撃」です。北杜市に弾道ミサイルが着弾するとの想定ですが、住民の保護方法は政府指針では、「屋内に避難させる」というものです。しかし、どこに落ちるかも分からないし、屋内だろうが、落ちたら防げるわけがないのです。
北杜市の担当者も、作成中の計画案は現実的でないと苦笑いしていました。さらに、地理的記述を除けば、県の計画と一字一句違わないと思われる計画案を市は、コンサルタント会社に外注しています。
●さまざまな問題点が
日本国憲法で侵すことのできない永久の権利として保障されている基本的人権が制約されるのではないか、避難訓練や避難演習が強制されることになるのではないか、平時において、武力攻撃に基づく訓練や演習を重ねることは、周辺アジアの国々に警戒感を喚起するのではないか、など、「国民保護計画」には、いくつもの懸念があります。中でも、自衛隊が住民の避難誘導に当たることについて、国際人道法の一つであるジュネーブ条約追加議定書(�)の軍民分離の原則に抵触する、という指摘がされています。
●地域から平和を創る教材に
荒唐無稽な計画であっても、いったん発動されれば、地域コミュニティ、人と人との信頼関係に大きな影響を与える保護計画です。今後、「北杜市国民保護計画」が明らかにされた段階で、学習会を行い、内容を検証していく必要を感じます。そして市に対しても、住民の生命・財産を守る立場から、この計画が矛盾しないのかを問い、市民、自治体が一緒になって、地域から平和を作っていく努力が大切であることを、共通認識として持ちたいと思います。足元から、身近なことから平和を考える上で、この「国民保護計画」はとても良い教科書ではないでしょうか。
ちなみに、長崎県の計画には、「長崎県民は、安全で幸福な生活と、自由で平和な社会が永遠に維持されることを念願している。国民の安全を確保し平和を維持するためには、国において、諸外国との友好に努め、一層の外交努力が払われることが何よりも重要であり、県としても、今後とも平和へのはたらきかけを行っていくものである」との記述があり、広島県、兵庫県も平和への努力を明文化しているとのことです。
さまざまな武力攻撃から国民を守るということ自体、日本国憲法の平和主義と相容れないものです。にもかかわらず、なぜ自治体に、末端の地域住民を巻き込む「保護計画」を作らせるのか、自分の足元に起きていることを、改憲の動きやアメリカへの協力や世界情勢との関連で市民自身が洞察することが重要な気がします。このところ、分かりやすいことがもてはやされた
り、難しいことは考えても仕方がないという、「思考停止」の甘い誘惑が蔓延するなかで、難しい問題や複雑なことを、難しい問題として複雑なこととして“思考する体力”が市民に要求されていると、つくづく感じます。
森井雅子
by halunet
| 2007-03-03 23:07
| 地方自治