2007年 02月 17日
池上洋通inいなだに |
久松重光
去る2月12日、伊那の中川文化センターで、竜援塾—世界を測り社会を創る生涯学習塾—の設立準備講演というものがありました。これは、2007年より伊那谷住民を中心に地域生活
と県政.国政ならびに国際情勢との関係、近代立憲主義、法治国家、民主制、信仰、歴史などの学習を通じて社会観を養成する視点と地域のオピニオンリーダーを育成する視点の二つを兼ね備えた生涯学習組織として立ち上げたとのことです。12日は、その趣旨に賛同した東京多摩自治体問題研究所の理事長で、千葉大や法政大の教鞭を取っている池上洋通さんが、「いま学ぶことがなぜ必要か」という題でとても素晴らしい基調講演をされました。今日は、その講演の概要を報告しようと思います。
池上さんは、いまなぜ学ぶことが、必要かという問いかけから始めた。今とはどういう時代なのか。何を目標として、何を作り出そうとしているのか。大きな関連のなかでも、地方自治のあり方が、改めて重要問題として浮かび上がってきている。彼は、今は間違いなく世界史的転換期であるという。その世界史的転換期とは、どういう意味できているのだろうか。まずは、社会.経済のボーダーレス化であり、この15年間で、世界貿易は、明らかに相互依存性を強めており、世界は、明らかに一体化しつつあるという。それに情報科学information technologyの発達により、人間関係の革命が起きてきる。日経新聞の調査によれば、パソコンの普及率は、1990年には、10,6%に過ぎなかったのに、2005年には、80,5%に急増している。パソコン普及による社会変化の一例を挙げれば、すでに新しいタイプの政治が始まりつつある。ある東京の30台の女性市議は、議会で起こったことを、逐一毎日自分のサイトに書き込み、それによって有権者との直接会話を実現している。IT革命は、政治との関わりをも変えつつある。
もうひとつの問題は、人口問題である。現在日本の全人口の65%が、国土の3%の面積に暮らしている。また世界人口を見れば、中国の一世帯あたりの出生率は、1,8人、インドは2人と明らかに、人口に抑止的な力が働きつつあるとはいえ、20世紀初頭の世界人口2億人から現在の65億人という人口爆発は、明らかに0成長社会の実現を要求している。0成長の循環型社会とは、別言すれば、貯金0の社会である。静止人口の問題は、このことを語りかけてくる。日本の人口が減ったら、外国からの労働力に頼ればいいという人がいるが、中国やインドでも静止人工化しており、どこの国も同じ問題に悩むことになる。われわれは、ダイナミックな歴史的瞬間を生きている。
こうした状況下で、21世紀の人類的課題を確認しておけば、
1. 平和な世界を建設すること
現在450兆円の国家予算のうち5兆円程度が軍事予算にまわっている。いま軍事費予算のために地方交付金が4兆円が削減されようとしている。
武器の売買を仲介しているのは、三井物産などの商社で、武器の性能の一覧のカタログなどで、あたかも一般の商品のように扱っているが、武器というものは、買い手は政府であり、この商品は一切の生産性を持たない。この根本的に人間存在と乖離しているビジネスを止めさせなくてはならない。9条は、人類史的構想力を持った条項であり、われわれは、政治的認知症に罹っているが、今こそこの条項に則った政治が行われなければならない。
また池上さんは、ストックホルム平和研究所等が出している世界の武力紛争地域を時系列で示したがこれは省略する。
2.環境優先の社会。経済システムの確立
2006年には中国の石油消費量は。アメリカについで世界第2位。ヒマラヤの万年雪が、現在解けているが、これは、日本に梅雨がなくなることを意味している。また中国政府は、現在中央アジアの森林を伐採して、これを日本などに輸出しているが、そのため物凄い勢いで中央アジアの森林は消えている。一方日本では、放置森林が10%になっており、3割を超えたら大変なことになる。現在各地で竹林が増えているが、竹は栄養がなくても育つ。そして竹の根は、浅く横にのびるため、広葉樹の根を切ってしまう。ところが林業従事者は減り、そのエキスパートがいなくなってしまった。われわれは、文化の引継ぎをする必要がある。
循環型社会の実現が、理念として明確になったのは、1992年の世界環境サミットであった。 それ以後は、こうした社会が可能かどうか、経済成長のためには環境を犠牲にしてもよいのでは、といった問いは、完全に無効であり、この理念は、人類生存のための公理となった。
3.多文化主義の上に立つ民主主義の確立
ユネスコは、戦争は無知から起こると提言している。この多文化主義は、国内でも尊重されなければならない。その意味でも、地方自治の役割は大きい。
4.貧困の克服
ここでは池上さんは、所得格差のことに触れた。国別にみた所得格差は、世界の32%になる低所得国の一人当たりの平均年間所得額は440ドル、48%になる中所得国では、下位では、1490ドル、上位では5440ドル、20%になる高所得国では28600ドルであり、世界平均は5510ドルである。ちなみに日本は、34180ドルであり、日本が変わることは、われわれが考えている以上に世界に大きな影響を及ぼす。2002年の主要国による国民総所得世界総額の構成比%は、世界総額313150億ドルにたいして、米国31% 日本14.3% ドイツ5.5% イギリス 4,0% フランス 3.9%その他41.3%であるが、最近中国が、フランスを抜いたとのことである。いずれにせよ、アメリカと日本で世界所得の45%を超えており、その責任は重い。また国内の所得格差を見ると、2003年野村総研の調査によれば、個人金融資産に見る国民間の経済格差の推計は、貯金額5億円以上ある世帯は、6万世帯、1−5億円は。72万世帯、5千万—1億円は、246万世帯、3千万—5千万円は、614万世帯、3千万円未満は3832万世帯、金融資産ナシは、人口の4分の1になる。いまや格差指数は、48倍になっている。すでにれっきとした格差社会である。経済的格差は、社会的発言権の問題でもある。現在82%の労働者が、労働組合に属していない。 経済格差は、自由にものが言えない社会を作りつつある。
社会の改革には、人間が育つほかないが、現在東大の入学者の非常に多くが、小学校から家庭教師をつけており、経済格差は、学力格差さえ生んでいる。
5.地方自治の役割の確認
中央政府の決定により、破壊が進み、また貧困が民主主義の根本を揺るがしている状況であるが、こうした中で地方自治の役割はますます大きくなっている。1985年には、ヨーロッパ地方自治体憲章に42カ国が加盟して、国際法にもなっている。地方自治体を基礎にして平和や環境問題を解決していこうという気運が高まっているが、日本の国内の現状は、相変わらず中央とのパイプを持つ利益誘導型の政治から脱していない。
6.社会のあり方についての理論を学ぶ意味
こうした状況から脱するためには、われわれは、まずどのような時代を生きているのかを知り、世界の状況を確認し、社会のあり方、国家のあり方を学びなおさなければならない。
情報操作に動じない軸作り、どういう知識が我々の社会を豊かにするかを吟味すること、それが、この時代を生きる者の教養である。
そして最後に、知識は、人を遠ざけ、教養は、人を近づける、という言葉で講演を結び、1985年第4回ユネスコ国際成人教育会議(パリ)で採択された「学習権」宣言と、1924年に飯田市の民権論者たちが起草した信南自由大学趣意書、そして宮沢賢治の稲作挿話という詩を朗読してその講演を終えました。
講演の後に、池上さんを囲んで、お酒を片手にしばし雑談をしました。1992年まで日野市役所に勤めていたそうです。元お役人にもこういう人がいるんですね。
いつしか池上さんの身の上話になり、自分から15歳のときから、溶接工として働き、最終学歴は定時制高校だから今の格差社会の辛さは人一倍分かるのだ、といいます。父がいなかったので、兄貴が僕たち弟を育ててくれた。その兄貴は、北海道で自民党の市議をしていたが、赤旗を読む変な自民党員だった。本当に立派な兄貴であったが、昨年亡くなってしまった。自分は、25歳のとき、ヘーゲル(ぼくはヘーゲルがあまり好きではないのですが反論しませんでした)とカントを独学で勉強したが、それが今の自分を作っている等々、いろいろ話してくれましたが、僕は、本当の知識人に出会ったように思いました。
四月からの竜援塾は、池上さんの講義で始まるようです。内容は、
1. 国民主権と立憲主義について考える。
2. 恒久平和主義とは何か
3. 基本的人権を考える
4. 議会制.議員内閣制を考える
5. 地方自治とは何か
池上さんが朗読したユネスコの「学習権」宣言は、ぼくは始めて知りました。また 1924年の書かれた信南自由大学趣意書のことも知りませんでした。いずれもとても素晴らしい文章なので紹介したいのですが、長くなりますので割愛します。
去る2月12日、伊那の中川文化センターで、竜援塾—世界を測り社会を創る生涯学習塾—の設立準備講演というものがありました。これは、2007年より伊那谷住民を中心に地域生活
と県政.国政ならびに国際情勢との関係、近代立憲主義、法治国家、民主制、信仰、歴史などの学習を通じて社会観を養成する視点と地域のオピニオンリーダーを育成する視点の二つを兼ね備えた生涯学習組織として立ち上げたとのことです。12日は、その趣旨に賛同した東京多摩自治体問題研究所の理事長で、千葉大や法政大の教鞭を取っている池上洋通さんが、「いま学ぶことがなぜ必要か」という題でとても素晴らしい基調講演をされました。今日は、その講演の概要を報告しようと思います。
池上さんは、いまなぜ学ぶことが、必要かという問いかけから始めた。今とはどういう時代なのか。何を目標として、何を作り出そうとしているのか。大きな関連のなかでも、地方自治のあり方が、改めて重要問題として浮かび上がってきている。彼は、今は間違いなく世界史的転換期であるという。その世界史的転換期とは、どういう意味できているのだろうか。まずは、社会.経済のボーダーレス化であり、この15年間で、世界貿易は、明らかに相互依存性を強めており、世界は、明らかに一体化しつつあるという。それに情報科学information technologyの発達により、人間関係の革命が起きてきる。日経新聞の調査によれば、パソコンの普及率は、1990年には、10,6%に過ぎなかったのに、2005年には、80,5%に急増している。パソコン普及による社会変化の一例を挙げれば、すでに新しいタイプの政治が始まりつつある。ある東京の30台の女性市議は、議会で起こったことを、逐一毎日自分のサイトに書き込み、それによって有権者との直接会話を実現している。IT革命は、政治との関わりをも変えつつある。
もうひとつの問題は、人口問題である。現在日本の全人口の65%が、国土の3%の面積に暮らしている。また世界人口を見れば、中国の一世帯あたりの出生率は、1,8人、インドは2人と明らかに、人口に抑止的な力が働きつつあるとはいえ、20世紀初頭の世界人口2億人から現在の65億人という人口爆発は、明らかに0成長社会の実現を要求している。0成長の循環型社会とは、別言すれば、貯金0の社会である。静止人口の問題は、このことを語りかけてくる。日本の人口が減ったら、外国からの労働力に頼ればいいという人がいるが、中国やインドでも静止人工化しており、どこの国も同じ問題に悩むことになる。われわれは、ダイナミックな歴史的瞬間を生きている。
こうした状況下で、21世紀の人類的課題を確認しておけば、
1. 平和な世界を建設すること
現在450兆円の国家予算のうち5兆円程度が軍事予算にまわっている。いま軍事費予算のために地方交付金が4兆円が削減されようとしている。
武器の売買を仲介しているのは、三井物産などの商社で、武器の性能の一覧のカタログなどで、あたかも一般の商品のように扱っているが、武器というものは、買い手は政府であり、この商品は一切の生産性を持たない。この根本的に人間存在と乖離しているビジネスを止めさせなくてはならない。9条は、人類史的構想力を持った条項であり、われわれは、政治的認知症に罹っているが、今こそこの条項に則った政治が行われなければならない。
また池上さんは、ストックホルム平和研究所等が出している世界の武力紛争地域を時系列で示したがこれは省略する。
2.環境優先の社会。経済システムの確立
2006年には中国の石油消費量は。アメリカについで世界第2位。ヒマラヤの万年雪が、現在解けているが、これは、日本に梅雨がなくなることを意味している。また中国政府は、現在中央アジアの森林を伐採して、これを日本などに輸出しているが、そのため物凄い勢いで中央アジアの森林は消えている。一方日本では、放置森林が10%になっており、3割を超えたら大変なことになる。現在各地で竹林が増えているが、竹は栄養がなくても育つ。そして竹の根は、浅く横にのびるため、広葉樹の根を切ってしまう。ところが林業従事者は減り、そのエキスパートがいなくなってしまった。われわれは、文化の引継ぎをする必要がある。
循環型社会の実現が、理念として明確になったのは、1992年の世界環境サミットであった。 それ以後は、こうした社会が可能かどうか、経済成長のためには環境を犠牲にしてもよいのでは、といった問いは、完全に無効であり、この理念は、人類生存のための公理となった。
3.多文化主義の上に立つ民主主義の確立
ユネスコは、戦争は無知から起こると提言している。この多文化主義は、国内でも尊重されなければならない。その意味でも、地方自治の役割は大きい。
4.貧困の克服
ここでは池上さんは、所得格差のことに触れた。国別にみた所得格差は、世界の32%になる低所得国の一人当たりの平均年間所得額は440ドル、48%になる中所得国では、下位では、1490ドル、上位では5440ドル、20%になる高所得国では28600ドルであり、世界平均は5510ドルである。ちなみに日本は、34180ドルであり、日本が変わることは、われわれが考えている以上に世界に大きな影響を及ぼす。2002年の主要国による国民総所得世界総額の構成比%は、世界総額313150億ドルにたいして、米国31% 日本14.3% ドイツ5.5% イギリス 4,0% フランス 3.9%その他41.3%であるが、最近中国が、フランスを抜いたとのことである。いずれにせよ、アメリカと日本で世界所得の45%を超えており、その責任は重い。また国内の所得格差を見ると、2003年野村総研の調査によれば、個人金融資産に見る国民間の経済格差の推計は、貯金額5億円以上ある世帯は、6万世帯、1−5億円は。72万世帯、5千万—1億円は、246万世帯、3千万—5千万円は、614万世帯、3千万円未満は3832万世帯、金融資産ナシは、人口の4分の1になる。いまや格差指数は、48倍になっている。すでにれっきとした格差社会である。経済的格差は、社会的発言権の問題でもある。現在82%の労働者が、労働組合に属していない。 経済格差は、自由にものが言えない社会を作りつつある。
社会の改革には、人間が育つほかないが、現在東大の入学者の非常に多くが、小学校から家庭教師をつけており、経済格差は、学力格差さえ生んでいる。
5.地方自治の役割の確認
中央政府の決定により、破壊が進み、また貧困が民主主義の根本を揺るがしている状況であるが、こうした中で地方自治の役割はますます大きくなっている。1985年には、ヨーロッパ地方自治体憲章に42カ国が加盟して、国際法にもなっている。地方自治体を基礎にして平和や環境問題を解決していこうという気運が高まっているが、日本の国内の現状は、相変わらず中央とのパイプを持つ利益誘導型の政治から脱していない。
6.社会のあり方についての理論を学ぶ意味
こうした状況から脱するためには、われわれは、まずどのような時代を生きているのかを知り、世界の状況を確認し、社会のあり方、国家のあり方を学びなおさなければならない。
情報操作に動じない軸作り、どういう知識が我々の社会を豊かにするかを吟味すること、それが、この時代を生きる者の教養である。
そして最後に、知識は、人を遠ざけ、教養は、人を近づける、という言葉で講演を結び、1985年第4回ユネスコ国際成人教育会議(パリ)で採択された「学習権」宣言と、1924年に飯田市の民権論者たちが起草した信南自由大学趣意書、そして宮沢賢治の稲作挿話という詩を朗読してその講演を終えました。
講演の後に、池上さんを囲んで、お酒を片手にしばし雑談をしました。1992年まで日野市役所に勤めていたそうです。元お役人にもこういう人がいるんですね。
いつしか池上さんの身の上話になり、自分から15歳のときから、溶接工として働き、最終学歴は定時制高校だから今の格差社会の辛さは人一倍分かるのだ、といいます。父がいなかったので、兄貴が僕たち弟を育ててくれた。その兄貴は、北海道で自民党の市議をしていたが、赤旗を読む変な自民党員だった。本当に立派な兄貴であったが、昨年亡くなってしまった。自分は、25歳のとき、ヘーゲル(ぼくはヘーゲルがあまり好きではないのですが反論しませんでした)とカントを独学で勉強したが、それが今の自分を作っている等々、いろいろ話してくれましたが、僕は、本当の知識人に出会ったように思いました。
四月からの竜援塾は、池上さんの講義で始まるようです。内容は、
1. 国民主権と立憲主義について考える。
2. 恒久平和主義とは何か
3. 基本的人権を考える
4. 議会制.議員内閣制を考える
5. 地方自治とは何か
池上さんが朗読したユネスコの「学習権」宣言は、ぼくは始めて知りました。また 1924年の書かれた信南自由大学趣意書のことも知りませんでした。いずれもとても素晴らしい文章なので紹介したいのですが、長くなりますので割愛します。
by halunet
| 2007-02-17 09:37