2013年 06月 19日
醍醐聡先生、TPPに怒りをこめて講演会@韮崎市 |
2013年6月16日、山梨県韮崎市での講演会。
TPPを考える八ケ岳の会
2013年6月16日
TPPで私たちの生活・未来はどうなるの?
――農業・食料・医療・保険はどう変わる?――
醍醐 聰
Ⅰ.TPPとは?
・環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership Agreement)の略
・現在の交渉参加国:シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ(計11カ国)
・交渉の対象分野(計21の分野):
貿易・投資・政府調達・知的財産・競争・金融サービス・労働・環境・原産地規則・衛生食物検疫など
・関税については10年以内にすべてを撤廃することを原則とする。
Ⅱ.TPPをめぐる誤解と誤報
1.日本は世界に閉じた国?
・菅首相「TPPは平成の開国」
→日本はすでに十分すぎるほど開いている。 表1参照
→世界に例を見ない食料自給率の低さこそ問題 表3参照
米の関税率778%だけをズームアップするのは恣意的
2.日本の農業は過保護?
・「農業に対する国際化の黒船はすでに20年前から来ている。日本は農産物、特にコメに対する保護水準を引き下げてこなかった。主食であるコメに778%、小麦に252%もの関税をかけて保護している。国際水準からみて、まさに天文学的な数字だ。」(本間正義「日本の農家は保護され過ぎ」『選択』2013年2月号)→国家予算に占める割合でいうと世界の中位、一戸当たりの予算規模でいうと世界の下位 。
表2参照
3.アジアの成長を取り込む?
・アジア諸国のうちのTPP参加国とFTA(2国間経済連携協定)参加国の経済規模の対比
→・TPPに参加しているアジア4カ国(日本以外)のGDP合計 736 US億ドル
・FTA協定を結んだアジア8カ国(日本以外)のGDP合計 4,055 US億ドル
・GDPベースでいうと、TPPへの参加で広がるアジアの経済圏は、日本が既に協定を交わ したアジア諸国の経済圏の5分の1以下 表4参照
・アジアの経済大国、中国・インド・韓国が参加していないTPPに参加しても「アジアの成長」を取り込めるわけではない。
・TPPは「自由貿易」ではなく、中国等を排除し、アジアの経済外交に分断を持ちこむ
「ブロック貿易」
・TPPでベトナムへの出店拡大の商機を窺う日本のコンビニ業界(2号店規制の撤廃)
→進出先の国内の零細企業を守る出店規制をこじ開けて商圏の拡大を図るのは「自由貿易」を装った経 済侵略 → 強者(米国)に屈従し、弱者に攻め込む国家的二重人格
4.日本は貿易立国?
「TPPから逃げられない『貿易立国日本』」(硬派ジャーナリスト・磯山友幸のブログ)
→・需要面からみた日本のGDPに最も寄与しているのは「家計の消費支出」(約57%)。輸出は輸入との差し引き残では約3%、グロスでも約16%の寄与でしかない。
・つまり、日本は「貿易立国」ではなく、「内需立国」。内需の回復こそ経済再生のカギ
表5参照
5.TPPは貿易の世界標準?
・「自由貿易」論は規制性悪説に立つ競争原理至上主義
国民の安心・安全、弱者保護のための規制を「業界保護=私益のための悪習」と攻撃して、「強者の私益追求の自由」を拡張しようとするイデオロギー
・その原理の発案元からいえば、米国仕様
・自国企業の商圏を世界の隅々に広げる上で障壁となる各国の関税や規制を蹴散らすためのルール作りを多国間交渉という装いで演出するための場づくりがTPP
・米国仕様のTPPは他国の市場はこじ開けようとするが、自国の市場は死守する保護主義をブレンドした身勝手な「自由」貿易主義
(例)①「砂糖、米国でも聖域 TPPよそに手厚い保護」(「朝日新聞」2013年3月24日)
・85%は国産。生産余剰分を政府が買い上げ、エタノール製造会社に払い下げ
・米国の砂糖価格は世界水準と比べ5割~10割増し
・関税を撤廃すれば、米国消費者は年間35億ドル(約3,300億円)の利益を得る。
②「繊維では中国対抗策 原糸・生糸も加盟国限定」(「朝日新聞」同上)
・2001年にWTOに加盟した中国からの安い衣料品(中国産の生糸を使用)の輸入急増で、国内の生糸・繊維業者は大打撃(雇用者は15年前の3分の1)
・さらに、TPP交渉に参加したベトナムからの衣料品(中国産の生糸や生地を使用)の輸入増加が予想される。
・そこで、米国政府が唱えているのが「原糸原則ルール」:関税撤廃の恩恵を受ける条件として、原料の生糸や生地はTPP加盟国から調達することを要求
③WTO違反と認定されても改めない米国の綿花輸出補助金
・2002年2月、ブラジル政府は、米国が自国の綿花生産者に与えている輸出補助金と生産助成金により、不当に低い価格で輸出をできるようにしているのは綿花の国際価格を押し下げ、ブラジルや開発途上国の綿花生産者に損害をもたらしている、これはWTOのルールに違反しているとして米国を提訴。アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、EU、インド、ニュージーランド等13カ国もこれに同調
・NPO法人・オックスファム(Oxfam)「これら4カ国〔注:西アフリカ4ヶ国〕は綿花の生産・出荷が・・・・貿易収支の8~12%を占めており、米国の綿花補助金によって生産される余剰綿花が世界市場にダンピング輸出され、国際価格を下げ、その結果としてアフリカの1億人の貧しい綿花農家をさらに貧窮させている」と批判。
・2004年9月、WTOはブラジルの訴えを支持し、2005年7月までに輸出補助金などを廃止するよう勧告
・しかし、米国は一部の助成を削除したが、砂糖を担保にした特恵的な融資制度や価格変
動補償金は変更せず。
④日米事前協議で、日本製自動車の輸入関税を撤廃するにあたって、スナップ・バック条項(国内の自動車産業が大きな打撃を蒙ったと判断した時は関税の復活を交渉できるという条項)を追加。関税撤廃の期限も25年先とするよう要求
Ⅲ.TPPは私たちの生活とどうかかわるのか?
1.地域経済が壊される
~地域経済を支える農業・規制・補助金が「自由貿易」の名の下に壊される恐れがある~
①農業が壊滅的な打撃を受け、農業に関連した産業・雇用が甚大な損害を蒙ることは確実
・全産業規模でいうと10.5兆円の生産額が失われ、190万人が雇用の場を失う。
・北海道は主要8品目の合計で50.5%の生産額、14.7%の農業所得を失う。
・富山県は米だけで富山県の全農業所得の26.3%を失い、福井県は25.6%を失い、石川県は19.8%を失う。
②全国にシャッター通りと買い物難民を生み出した大店法改悪の発端は日米構造協議
・1973年に成立した大店法:中小小売業保護の立場から、一定以上の面積(1,500㎡。政令指定都市等では3,000㎡)を有する建物を規制の対象。通産大臣は、周辺小売業に及ぼす影響が大きいと認めるときは、大規模小売店舗審議会の意見をふまえて勧告することができると いう法律
・日米構造協議の場で米国は、大規模店の出店が規制されているため、アメリカカらの輸入品の 販売が阻害されていると主張。通商301条(スーパー301)による輸入停止や他の品目にも制裁措置を課すクロス・リタリエーションを楯にして日本を攻撃
・1991年大店法改悪:規制の対象とする売場面積を従来の2倍(3,000㎡。政令指定都市等では6,000㎡)に引き上げ、商業活動調整協議会を廃止
③地産地消を進めるための補助金がやり玉に挙げられる可能性がある。 表9参照
・「岐阜県に米国食品企業が投資をして食材工場を造り、長野県に食品を出そうとしたら、『長野県産でないと補助金(奨励金)は出ないのでお宅のものを使わない』と言われ、それを訴えることは考えられるかも知れない。」(長野県が照会した「我が国のTPP交渉参加に関する疑問点」に対する内閣官房の回答、2013年3月27日、11ページ)
・山梨県の輸出振興補助金
県産果実海外販路開拓事業費補助金/輸出向け選果体制確立事業費補助金/果樹王国やまなし輸出戦略事業費補助金
④漁業地域のインフラ復興を支援する補助金がやり玉に挙げられる可能性
・WTOでの漁業補助金に関する議論(2007年のルール議長私案の骨子)
過剰漁獲の抑制・漁業資源の保全のためとして、漁船の獲得・建造・修理・近代化のための補助金、漁船の操業経費(燃油費・人件費など)・流通加工分野への支援、漁港インフラや関連施設の整備、漁業者への所得補償のための補助金の禁止を提案
・各国の主張
①米国・ニュージーランド、豪州:漁業補助金を幅広く禁止すべき
②途上国・中国・インド・ブラジル:小規模漁業向け補助金への配慮を要求。その他は禁止
③日本・韓国・EU:過剰漁獲につながる補助金に限って禁止
・漁港インフラ補助金の禁止は震災復興の拠点となる漁港の復旧を妨げる。
・漁業者への所得保障・操業経費補助金が禁止されると原油高騰/燃油費高で出漁さえできない漁業者の生活を一層、困窮させる。
・「〔漁業補助金が〕実際に原則禁止となれば、漁港・水産加工施設整備や創業支援など『現行予算の相当部分が認められない』(水産庁)事態が想定され、水産政策の大転換を余儀なくされる可能性がある。」 「今回の大津波で本県は111漁港のうち108漁港が防波堤や岸壁などのインフラをはじめ、水産加工場などの水産施設が壊滅的な被害を受けた。」 「こうした施設の復旧には長い期間が必要な場所もあり、仮にインフラ整備への補助金が禁止されると復旧・復興に重大な支障が出る。」(『岩手日報』2011年11月9日)
2.食の安全が脅かされる――遺伝子組み換え食品を例にして――
~食の安全を守る規制が自由貿易の障壁になるとして撤廃を迫られる~
*遺伝子組み換え食品の危険性
①免疫系への影響(新たなたんぱく質が体内に入り込んでくると、病気やアレルギーを誘発させるチャンスを増やす。)
②子孫への影響(3世代、4世代後の子どもの体内で外来遺伝子が人体の宿主細胞にどのような作用を及ぼすのか不明。健康と生命力に意図しない、予期しない影響を及ぼす恐れが ある。)
③内蔵障害(肝臓や腎臓などの解毒にかかわる器官を損傷させる恐れ)
④遺伝子組み換え作物は強い薬剤耐性を持つがために、散布薬剤量を増やし、農薬残留量を 増やす。→ アメリカは同国(モンサント社など)から大豆を輸出している世界各国に残 留農薬基準の引上げを要→2000年4月、厚労省、輸入の際の除草剤ラウンドアップ(モンサント社製)の残留農薬基準量を引上げ(大豆6ppmから20ppmへ、トウモロコシ0.1ppmから1.0ppmへ。サトウキビ0.2ppmから2.0ppmへ)
・2009年5月 米国環境学会、遺伝子組み換え作物の開発の一時中止を求める声明を発表
*大豆、トウモロコシの最大の輸入先のアメリカでは遺伝子組み換え作物が8割を占めている。
表7参照
*安全性検査(2001年4月1日施行「食品衛生法」)に基づく組み換え食品安全審査に関する厚生省告示232号)→ 輸入品にも適用
・食品の全部または一部に組み換えDNA技術を含む場合は厚生大臣が定めた安全審査の手続を経たものであることの公表を義務付け
・輸入品の審査はモニタリング検査 表8-1、表8-2参照
*表示規制
・表示義務の対象:大豆・トウモロコシ・ナタネ・ジャガイモ・綿実・てん菜・アルファルファの7品種とこれらを原材料とする32種の加工食品(豆腐・納豆・みそ・きな粉・コーンスナック菓子・ポップコーンなど)
・原材料の重量に占める割合が上位4位以下、あるいは、原材料全体の重量に占める割合が5%未満の加工食品は、表示義務の対象外
・醤油・食用油は検出技術の限界を理由に表示義務なし(任意表示は可)
・日本の国民は、今でも、遺伝子組み換え作物の最大の栽培国から輸入した大量の遺伝子組み換え作物を原材料にした加工食品をそれと知らないまま消費している。
*TPPへの参加で懸念される影響
・大豆、馬鈴しょ、てん菜などの輸入が増加するのに伴い、遺伝子組み換え作物を原材料にした加工食品をそれと意識せず食べる機会が激増する。
・遺伝子組み換えトウモロコシ等を飼料として使った外国産畜産品の輸入が増加することにより、遺伝子組み換え作物をそれと意識せず、食べる機会が激増する。
・経団連会長を務める米倉弘昌氏が会長の職にある住友化学は遺伝子組み換え作物の世界最大手のモンサント社の遺伝子組み換え作物(ラウンドアップ)の種子を組み合わせた除草剤の販売・普及について長期的協力関係を結んでいる(2010年10月20日付け、同社プレスリリース)
・日本モンサント社は目下、デュポン社やダウ・ケミカル社などとともに、遺伝子組み換えダイズ、除草剤耐性ダイズなど、多くの遺伝子組み換え作物及び添加物の安全性の審査を厚労省に申請している。
・遺伝子組み換え作物の最大の栽培国であり、輸出国である米国から、遺伝子組み換え作物の安全性審査や表示規制、残留農薬規制が、「自由貿易の障壁」、内国民待遇違反として撤廃を迫られる可能性がある。
2.米国の知的財産権要求で日本の文化と医療が壊される
~流出したTPPでの米国知財条文案にもとづいて~
(福井健策「TPPの主戦場になった知的財産権と、日本への影響」『国際農業・食料レター』
JAグループ刊、No.174, 所収)を参考にして)
①著作権期間の大幅延長
・日本の著作権は50年のところを、米国並みに70年に延長するよう要求(コンテンツの輸出増をあてこんだ要求)
・名作上映会や「青空文庫」といった文化活動が狭められる。
・「孤児著作物」が増えるだけ
②法定賠償金の導入
・米国並みの高額賠償金(一作品当たりの上限約1,500万円)の導入
・知財違反を巡る訴訟の増加 → 権利者と連絡が取れない資料の復刻や利用がしにくくなる。
③遺伝子組み換え種子特許の導入
・植物を対象とする特許(生物特許)の導入 → 独占的な種子ビジネスの出現
④医療に関する特許権の強化
・日本の現行法では認められていない人間を手術する方法、治療の方法、診断する方法を米国並みに特許の対象とするよう要求
・先進的医療方法が、それを最初に開発・発明したものに独占され、普及が阻害される。
・医療が投資の対象とみなされる。
⑤先発医薬品の特許期間の延長
・新薬開発にかけた投資の回収を確かなものにするためとして、現行20年以内を5~10年、延長するよう要求
・安価なジェネリック医薬品の普及が遅れる。
→ 途上国のHIV治療にジェネリック医薬品を使っている国境なき医師団の抗議
Ⅳ.TPPへの参加を阻止する可能性は十分ある
・政府の対米交渉力という幻想からの離反(時事通信の世論調査)
・見えないメリット、見えてくるのはデメリットばかり
→ TPPは日本の国益を米国と多国籍企業に売り飛ばす「平成の不平等条約」
・各地で反対運動が広がっている。生産者と消費者・市民団体の連携
・あきらめずに運動を広げれば、日本の主権と国益を日本国民の手で守るのだという世論を生み出し、政府に交渉からの撤退を促す道は必ず開ける。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜資料集〜〜〜〜〜〜〜〜
経産省「補助金交渉」より作成
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/negotiation/subsidies/subsidies.html




by halunet
| 2013-06-19 16:51
| TPP
























