2011年 10月 05日
明野処分場の監査請求/47億円もの赤字を見逃すとすれば、監査委員会の割放棄では? |
2011年10月4日、明野廃棄物最終処分場対策協が住民と市民それに全国ゴミ弁連の梶山正三弁護士を交えて記者会見を兼ねた報告会を開いた。処分場問題への住民側からの異議申し立てに対する二つの公的機関の回答について、その不当性を訴え議論する場となった。
処分場の財政的破綻と非合法性を衝いた住民市民113人による監査請求を、山梨県監査委員会は独自の判断を放棄したとしか思えないような、請求破棄という結論を9月19日に出した。以下はそれに対して、問題点を明らかにした対策協の見解の全文だ。
住民監査請求の結果とその問題点
文責:明野廃棄物最終処分場問題対策協議会 9月19日、山梨県監査委員は、113人の請求人が7月20日に提出した監査請求に対して、「請求人の主 張には理由がない」として棄却しました。これは産業廃棄物の処理に伴う赤字(少なくとも47億円!実際には
どんどん膨れ上がっていきます)を私たちの税金で賄うことに何ら問題はないとする異常な判断です。
同監査委員は元県職員1名、県会議員2名、会計監査人1名の計4名から構成されています。今回の結果は、 ...
これらの委員の判断があまりにも県寄りであり、公平性・客観性に欠けるものであることを物語っています。税 金の無駄遣いをチェックしないばかりか、今回の明野処分場のような莫大な損害を県民に負わせる予算執行を認 めるというのであれば、監査委員としての役割を放棄していると言わざるを得ません。
以下、説明します。
I.私たちの請求の主旨 1.知事の非合理な判断
都道府県知事には予算の執行に関して裁量権が認められています。しかし、これは「何をやってもいい」とい うことではありません。裁判の判例からも明らかなことですが、その裁量権が認められる条件は、それに関する 知事の判断が合理的であることです。当然のことながら、非合理な判断に基づく予算の執行は裁量権の逸脱であ り、濫用になります。
明野処分場の運営は、5.5年で1800万円の黒字になるという山梨県知事の判断に基づいて開始しました。 しかし、それから半年しか経っていない平成21年11月には、約35億円の赤字になると評価され、更に半年 後の平成22年5月には46億7100万円の赤字が見込まれようになりました。
私たちはこの判断を非合理とし、同知事が同様の非合理な判断によって、今後の収支見通しを立てていること を指摘しました。
2.必要性の破綻 平成23年5月、同知事は赤字見通しとともに、次期最終処分場(境川)に関して、産業廃棄物の受入を行な
わない方針を発表しました。 公共関与の処分場計画は、今から20年近くも前の平成5年9月、産業廃棄物の受け入れ先を確保する必要性
があるとして進められてきたものです。明野処分場の安全性を心配する住民の根強い反対運動によって、この計 画は遅々として進まず、その間に時代状況・経済状況が大きく変化し、廃棄物は大幅に減少しました。
しかし、同知事はこの状況の変化を正しく見ようとせず、既に必要性のなくなっていた明野処分場を、住民の 反対を無視して強引に建設しました。その客観的な現れが赤字なのです。同知事が次期処分場において産業廃棄 物の受入から撤退したことは、知事自らがそのことを認めたことに他ならないと私たちは指摘しました。
3.廃棄物処理法、地方自治法、地方財政法違反 廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理責任を事業者に負わせています(第3条)。(財)山梨県環境整備事業団
には県1000万円、市町村500万円、事業者1500万円を出資しています。明野処分場は事実上、産業廃 棄物のための処分場です。それにも関らず、同知事は同処分場の運営によって生じる莫大な赤字を県費で賄おう としています。廃棄物処理法上からすれば、この赤字は事業者に負わせるべきであって、これを県費で賄うこと は、この法に違反することを私たちは指摘しました。
また、地方自治法では、県の事務処理には最小の経費で最大の効果を挙げるよう義務付けられています(第2
1
2011年10月4日
条14項)。更に、地方財政法でも、県の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度をこえてはな らないとしています(第4条1項)。もはや公共の関与する必要性のなくなった産業廃棄物処理事業を今後も続 け、そのために生じる莫大な赤字を県費で賄うことは、これらの法に違反することを私たちは指摘しました。
4.事業団の赤字運営を支える奇妙な仕組み
私たちは、山梨県と(財)山梨県環境整備事業団が山梨中銀等を間に挟むことによって同事業団の赤字経営を 支える仕組みについて指摘しました。図から分かるように、事業団は、年度末の3月31日に金融機関から借り 入れて県に返済しているので、年度末には見かけ上同事業団は山梨県の借入を返済したことになっています。
このような仕組みは、県民および県議会を欺くものです。実際には、金融機関からの借入で、同県からの借入 を返済するという自転車操業であり、早晩倒れることは明白です。同県にとって、事業収支の黒字に転ずる見込 が無く、自転車操業を行っている事業者への貸付は焦げ付くことが必至であり、このような貸付を繰り返すこと により、どんどん回収不能な貸付金が増大し、県財政に多大な損害を与えています。
これらに対する、同監査委員の判断の根拠は以下のものです。
II.監査委員の判断の論理構成はどのようなものなのでしょうか?
■監査結果 (1)本件措置請求のうち、「公共性のない処分場」、「『廃棄物処理法第3条』違反」、「『地方自治法第2条第1
4項』及び『地方財政法第4条第1項』違反」に係る請求については、理由がないものと判断する。 (2)本件措置請求のうち、その余の請求については、地方自治法第242条の規定に基づく住民監査請求の対
象とはならないものと判断する。
■事実認定(以下13項目) (1)産業廃棄物に関する諸法令、(2)財団法人山梨県環境整備事業団の設立経緯、(3)事業団の役割と事業
内容、(4)事業団の組織、(5)山梨県環境整備センターの設置目的、根拠法令及び建設資金調達、(6)環
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境整備センター建設の経緯、(7)県と環境整備センターとの関わり、(8)事業団設立後の廃棄物処理をめぐ る状況、(9)環境整備センターの廃棄物の搬入実績量及び利用料金、(10)事業団の経営状況、(11)環 境整備センターの安全性及び漏水検知システムについて、(12)事業団への財政的援助の状況、(13)平成 23年6月定例県議会知事説明、
上記の事実認定のもとに公金支出及び損失補償の違法性について判断
■監査委員の判断 1.請求人の根拠「(イ)必要性の破綻」について
認定事実(13)のとおり、請求人の主張は「独自の見解を述べたものに過ぎない」と、監査請求の対象と はならないと判断。
2.「(ロ)公共性のない処分場」について 「廃棄物処理法」で公共関与は認められている、公共関与によって安全性、信頼性が期待される。認定事実(1 1)のとおり、モニタリング施設には安全性があり、「安全管理委員会」に報告している。環境整備センター は県と事業団が一体となって進めてきており、処分量が大幅に減少してきてても、その必要性は低下するもの ではない。よって安全性を優先した公共性のある施設であるので、請求人の主張には理由がない。
3.「(ハ)廃棄物処理法第3条違反」について 同法3条の趣旨は認めつつ、しかし、第11条第3項及び第15条の5において、公共関与の処分場が認め られているので、公費負担をもって違法な支出とは言えず、請求人の主張には理由がない。
4.「(ニ)地方自治法第2条第14項及び地方財政法第4条第1項違反」について <裁量権>
地方自治法上も公金の支出には公益性が求められるとし、「損失補償の要否の決定は、総合的政策判断であ るので公益上の必要性に関する判断に当たっては、一定の裁量権があり、その判断に裁量権の逸脱又は濫用 があったと認められる場合には、当該損失補償は違法となる」との判例を示している。さらに、公益性の判 断基準として、「(中略)その裁量権の逸脱又は濫用があったかどうかは、議会における承認の有無、当該補 助や貸付けの趣旨、目的、効用、支出の対象となる相手方や事業の性格、当該地方公共団体の財政の規模及 び状況など諸般の事情を勘案し、その内容が著しく不適切、不合理なものでなかったかどうかによって決せ られるべきである」との判例を示している。
次に上記の判例に挙がっている項目に従って検討しています。 ●支出の対象については、産業界や市町村の要請を背景に、安全性と信頼性を確保できる処分場の運営をする
事業団と一体となって、公共性を有する処分場の活用を図ってきたもので、なにも問題はない。 ●県の財政状況については、引き続き厳しいが、産業界、市町村の要請を背景に県が推進してきたことなどを
考慮すると、最終処分場事業に対し公費支出を行うことは県の重要な役割。 ●議会における承認の有無については、認定事実(12)により議会の議決を受けた。
以上のことから、公金の支出及び損失補償契約の締結に公益上の必要性がないということはできない。また、 46億71百万円の赤字の見通しとなったとしても、そのことをもって公益上の必要性がないものというこ とはできない。そうすると、知事の判断は著しく不適切、不合理なものということはできないので、裁量権 の逸脱又は濫用があったということはできない。よって請求人の主張には理由がない。地方自治法、地方財 政法についても、裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められないので、違反しているとはいえない。従っ て請求人の主張については理由がない。
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5.「(ホ)非合理な受け入れ廃棄物量の見積及び収支見通し」について 住民監査請求の対象は地方公共団体の財務会計上の行為に限られる。概算収支計画、経営審査委員会報告書、 収支見通しにおける試算は財務会計上の行為には該当しない。また、概算収支計画等が、県の損失補償契約 の締結という財務会計上の行為の直接原因と言えるような密接かつ一体的な関係であるとは言えないので、 監査請求の対象にはならない。
6.「(ヘ)処分場の継続は、県に多大な損害を与える」について 請求人の「県が事業団の赤字を払い続けていることになる」という主張は、具体的な予防、是正の措置を検 討する対象の要件、「当該行為がなされることが相当の確実さを持って予測される場合」を示していない。 また、事業団の金融機関からの借り入れは県の財務会計上の行為ではないので、いずれも監査請求の対象と はならないものと判断。
III.監査委員の判断の根拠とその問題点
そもそも判断の前提となる事実認定が、県・事業団の主張を下敷きにしており、中立性に疑念があると言 わざるを得ません。上記の個々の判断を見ても分かるように、県・事業団の主張を聞いているようです。請 求人の法令違反との主張について、違法とはいえない根拠として唯一、「産業界、市町村の要請を背景に、 必要性のある公共関与の処分場である」ことを挙げていますが、まったく説得力を持たないものです。他の 主張に関しては、監査請求対象外としていますが、47億円にも及ぶ赤字を「良し」とする納得できる合理 的根拠は示されていません。以下、その問題点について少し詳しく見てみます。
1.公益性があるので(?)、違法ではない 同監査委員は、上記I-3の廃棄物処理法第3条違反に関して、同法第11条3項に「都道府県は、産業廃
棄物の適正な処理を確保するために都道府県が処理することが必要であると認める産業廃棄物の処理をその 業務として行なうことができる」とあること、また、同法第15条の5に、第3セクター等の方式による都道 府県が関与した廃棄物処理センター方式についての規定があることをもって、同知事が明野処分場の運営から 生じる莫大な赤字を県費で賄うことは違法ではないと判断しています。
しかし、同法15条の5に第3セクター方式の規定があるということが、産業廃棄物処理から生じる赤字を 県費で賄うことを正当化できないことは明らかです。また、同法第11条3項には「都道府県が処理すること が必要であると認める産業廃棄物」と明記されています。明野処分場の赤字はその必要性のないことの証拠で すし、同知事自身が次期処分場の産業廃棄物処理からの撤退を明言して、これを認めているのですから、この 条項に基づいて廃棄物処理法違反はないとする同監査委員の判断は間違っています。
次に、地方自治法第2条14項および地方財政法第4条1項違反に関して、同監査委員は、都道府県知事の 判断が非合理である場合、それが裁量権の逸脱および濫用になることを認めながら、1この事業はこれまで山 梨県が進めてきたものであること、2この事業に関する県費の支出は山梨県議会の承認を得ていることの二点 だけを理由に、奇妙にも「本件措置請求に係る公金の支出及び損失補償契約の締結に公益上の必要性がないと いうことはできない」と述べ、同知事の判断に非合理はないとしています。 しかし、1に関して、これまでの県の進め方に問題があったからこそ、明野処分場が稼動した直後から莫大な 赤字の問題が生じてきたのです。県の進め方に問題がなく、知事の判断に非合理がないのならば、1800万 円の黒字が稼動と同時に35億円の赤字になるようなことはあり得ません。 また、2に関して、議会の議決のあることが行政の違法性を免罪してくれないことは最高裁の判例でも認めら
れていることです。同監査委員は、このことを認識していたのにも関らず、それを無視しました。
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同監査委員は、知事の判断内容そのものに関しては、それが非合理であるのかどうかの検討をまったく行なっ ていません。
2.監査請求の対象ではない 同知事の判断内容そのものの合理・非合理を判定するためには、私たちの提示したI-1、2、4を検討し
てみることが必要不可欠です。ところが、同監査委員は、I-2の必要性の破綻に関して、私たちの主張が「独 自の見解を述べたものにすぎない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、公共関与の産業廃棄物処分場の必要性は平成5年、産業廃棄物の増大が見込まれ、その処分場の確 保が困難と判断された当時の話です。状況が大きく変化し、産業廃棄物処分場が赤字経営になるような現状に おいて、いまだ公共関与の処分場が必要だとする同知事の見解こそ非合理な「独自の見解」なのではないでし ょうか。
また、I-1は『概算収支計画』(平成20年5月)、『経営審査委員会報告書』(平成21年11月)、今回 の『収支見通し』(平成23年5月)の数字を検討することによって、同知事の判断の非合理さを述べたもの です。この問題に関して、同監査委員はそれらの試算が「財務会計上の行為の、直接の原因ということができ るような密接かつ一体的な関係であるとはいえない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、これこそ知事の判断内容に合理性があるかないかを判定するための重要な問題です。なぜならば、 これらの試算によって1800万円の黒字や36億円の赤字、そして今回の47億円の赤字が見込まれたので すから。
最後に、I-4に奇妙な仕組みに関して、同監査委員はこれを「事業団の金融機関からの借り入れは県の財 務会計上の行為ではない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、この仕組みは事業団の赤字経営を支え、毎年その赤字を増大させ続け、将来の莫大な赤字を私たち の税金で賄わせるためのものです。そして、この借り入れは、県が事業団に対して、金融機関が事業団に貸付 けた事業資金について損失を受けた場合、その損失を補償することによって可能になっています。この補償が なければ、誰も事業団のような自ら利益を生むことのない企業に金を貸しません。
同監査委員の判断の根拠は以上III-1、2の2点でしかありません。ここには47億円もの赤字を最終的に 県費で賄おうとするその予算執行の問題について検討しようとする姿勢がまったく伺われません。
そもそも監査委員は、地方公共団体の財務事務や事務の執行等の行政運営が、公正で合理的かつ効率的に行 われているかという観点から監査する役割を担っています。つまり住民の税金が適正に使われているかをチェ ックする者として、どこにも影響を受けない独立した執行機関として地方自治法等に規定されているのです。 さらに、地方自治法において、監査委員は、「人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理 その他行政運営に関し優れた識見を有する者」と規定されています。地方公共団体の長には、地方自治法上も、 予算の執行に関し適正を期することが厳しく求められていますが、それが確保できているかを厳正に監査する ことが監査委員の役割です。しかし、今回の監査結果は、県・事業団の従来からの言い分をそのままコピーペ ーストしたといっても言い過ぎではなく、監査委員が”優れた識見”をもって独自に調査・監査したとは思わ れず、「独立した執行機関」としての判断とはとうてい言えるものではありません。何のためにあるのか、監 査委員のあり方が根底から問われています。
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処分場の財政的破綻と非合法性を衝いた住民市民113人による監査請求を、山梨県監査委員会は独自の判断を放棄したとしか思えないような、請求破棄という結論を9月19日に出した。以下はそれに対して、問題点を明らかにした対策協の見解の全文だ。
住民監査請求の結果とその問題点
文責:明野廃棄物最終処分場問題対策協議会 9月19日、山梨県監査委員は、113人の請求人が7月20日に提出した監査請求に対して、「請求人の主 張には理由がない」として棄却しました。これは産業廃棄物の処理に伴う赤字(少なくとも47億円!実際には
どんどん膨れ上がっていきます)を私たちの税金で賄うことに何ら問題はないとする異常な判断です。
同監査委員は元県職員1名、県会議員2名、会計監査人1名の計4名から構成されています。今回の結果は、 ...
これらの委員の判断があまりにも県寄りであり、公平性・客観性に欠けるものであることを物語っています。税 金の無駄遣いをチェックしないばかりか、今回の明野処分場のような莫大な損害を県民に負わせる予算執行を認 めるというのであれば、監査委員としての役割を放棄していると言わざるを得ません。
以下、説明します。
I.私たちの請求の主旨 1.知事の非合理な判断
都道府県知事には予算の執行に関して裁量権が認められています。しかし、これは「何をやってもいい」とい うことではありません。裁判の判例からも明らかなことですが、その裁量権が認められる条件は、それに関する 知事の判断が合理的であることです。当然のことながら、非合理な判断に基づく予算の執行は裁量権の逸脱であ り、濫用になります。
明野処分場の運営は、5.5年で1800万円の黒字になるという山梨県知事の判断に基づいて開始しました。 しかし、それから半年しか経っていない平成21年11月には、約35億円の赤字になると評価され、更に半年 後の平成22年5月には46億7100万円の赤字が見込まれようになりました。
私たちはこの判断を非合理とし、同知事が同様の非合理な判断によって、今後の収支見通しを立てていること を指摘しました。
2.必要性の破綻 平成23年5月、同知事は赤字見通しとともに、次期最終処分場(境川)に関して、産業廃棄物の受入を行な
わない方針を発表しました。 公共関与の処分場計画は、今から20年近くも前の平成5年9月、産業廃棄物の受け入れ先を確保する必要性
があるとして進められてきたものです。明野処分場の安全性を心配する住民の根強い反対運動によって、この計 画は遅々として進まず、その間に時代状況・経済状況が大きく変化し、廃棄物は大幅に減少しました。
しかし、同知事はこの状況の変化を正しく見ようとせず、既に必要性のなくなっていた明野処分場を、住民の 反対を無視して強引に建設しました。その客観的な現れが赤字なのです。同知事が次期処分場において産業廃棄 物の受入から撤退したことは、知事自らがそのことを認めたことに他ならないと私たちは指摘しました。
3.廃棄物処理法、地方自治法、地方財政法違反 廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理責任を事業者に負わせています(第3条)。(財)山梨県環境整備事業団
には県1000万円、市町村500万円、事業者1500万円を出資しています。明野処分場は事実上、産業廃 棄物のための処分場です。それにも関らず、同知事は同処分場の運営によって生じる莫大な赤字を県費で賄おう としています。廃棄物処理法上からすれば、この赤字は事業者に負わせるべきであって、これを県費で賄うこと は、この法に違反することを私たちは指摘しました。
また、地方自治法では、県の事務処理には最小の経費で最大の効果を挙げるよう義務付けられています(第2
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条14項)。更に、地方財政法でも、県の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度をこえてはな らないとしています(第4条1項)。もはや公共の関与する必要性のなくなった産業廃棄物処理事業を今後も続 け、そのために生じる莫大な赤字を県費で賄うことは、これらの法に違反することを私たちは指摘しました。
4.事業団の赤字運営を支える奇妙な仕組み
私たちは、山梨県と(財)山梨県環境整備事業団が山梨中銀等を間に挟むことによって同事業団の赤字経営を 支える仕組みについて指摘しました。図から分かるように、事業団は、年度末の3月31日に金融機関から借り 入れて県に返済しているので、年度末には見かけ上同事業団は山梨県の借入を返済したことになっています。
このような仕組みは、県民および県議会を欺くものです。実際には、金融機関からの借入で、同県からの借入 を返済するという自転車操業であり、早晩倒れることは明白です。同県にとって、事業収支の黒字に転ずる見込 が無く、自転車操業を行っている事業者への貸付は焦げ付くことが必至であり、このような貸付を繰り返すこと により、どんどん回収不能な貸付金が増大し、県財政に多大な損害を与えています。
これらに対する、同監査委員の判断の根拠は以下のものです。
II.監査委員の判断の論理構成はどのようなものなのでしょうか?
■監査結果 (1)本件措置請求のうち、「公共性のない処分場」、「『廃棄物処理法第3条』違反」、「『地方自治法第2条第1
4項』及び『地方財政法第4条第1項』違反」に係る請求については、理由がないものと判断する。 (2)本件措置請求のうち、その余の請求については、地方自治法第242条の規定に基づく住民監査請求の対
象とはならないものと判断する。
■事実認定(以下13項目) (1)産業廃棄物に関する諸法令、(2)財団法人山梨県環境整備事業団の設立経緯、(3)事業団の役割と事業
内容、(4)事業団の組織、(5)山梨県環境整備センターの設置目的、根拠法令及び建設資金調達、(6)環
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境整備センター建設の経緯、(7)県と環境整備センターとの関わり、(8)事業団設立後の廃棄物処理をめぐ る状況、(9)環境整備センターの廃棄物の搬入実績量及び利用料金、(10)事業団の経営状況、(11)環 境整備センターの安全性及び漏水検知システムについて、(12)事業団への財政的援助の状況、(13)平成 23年6月定例県議会知事説明、
上記の事実認定のもとに公金支出及び損失補償の違法性について判断
■監査委員の判断 1.請求人の根拠「(イ)必要性の破綻」について
認定事実(13)のとおり、請求人の主張は「独自の見解を述べたものに過ぎない」と、監査請求の対象と はならないと判断。
2.「(ロ)公共性のない処分場」について 「廃棄物処理法」で公共関与は認められている、公共関与によって安全性、信頼性が期待される。認定事実(1 1)のとおり、モニタリング施設には安全性があり、「安全管理委員会」に報告している。環境整備センター は県と事業団が一体となって進めてきており、処分量が大幅に減少してきてても、その必要性は低下するもの ではない。よって安全性を優先した公共性のある施設であるので、請求人の主張には理由がない。
3.「(ハ)廃棄物処理法第3条違反」について 同法3条の趣旨は認めつつ、しかし、第11条第3項及び第15条の5において、公共関与の処分場が認め られているので、公費負担をもって違法な支出とは言えず、請求人の主張には理由がない。
4.「(ニ)地方自治法第2条第14項及び地方財政法第4条第1項違反」について <裁量権>
地方自治法上も公金の支出には公益性が求められるとし、「損失補償の要否の決定は、総合的政策判断であ るので公益上の必要性に関する判断に当たっては、一定の裁量権があり、その判断に裁量権の逸脱又は濫用 があったと認められる場合には、当該損失補償は違法となる」との判例を示している。さらに、公益性の判 断基準として、「(中略)その裁量権の逸脱又は濫用があったかどうかは、議会における承認の有無、当該補 助や貸付けの趣旨、目的、効用、支出の対象となる相手方や事業の性格、当該地方公共団体の財政の規模及 び状況など諸般の事情を勘案し、その内容が著しく不適切、不合理なものでなかったかどうかによって決せ られるべきである」との判例を示している。
次に上記の判例に挙がっている項目に従って検討しています。 ●支出の対象については、産業界や市町村の要請を背景に、安全性と信頼性を確保できる処分場の運営をする
事業団と一体となって、公共性を有する処分場の活用を図ってきたもので、なにも問題はない。 ●県の財政状況については、引き続き厳しいが、産業界、市町村の要請を背景に県が推進してきたことなどを
考慮すると、最終処分場事業に対し公費支出を行うことは県の重要な役割。 ●議会における承認の有無については、認定事実(12)により議会の議決を受けた。
以上のことから、公金の支出及び損失補償契約の締結に公益上の必要性がないということはできない。また、 46億71百万円の赤字の見通しとなったとしても、そのことをもって公益上の必要性がないものというこ とはできない。そうすると、知事の判断は著しく不適切、不合理なものということはできないので、裁量権 の逸脱又は濫用があったということはできない。よって請求人の主張には理由がない。地方自治法、地方財 政法についても、裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められないので、違反しているとはいえない。従っ て請求人の主張については理由がない。
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5.「(ホ)非合理な受け入れ廃棄物量の見積及び収支見通し」について 住民監査請求の対象は地方公共団体の財務会計上の行為に限られる。概算収支計画、経営審査委員会報告書、 収支見通しにおける試算は財務会計上の行為には該当しない。また、概算収支計画等が、県の損失補償契約 の締結という財務会計上の行為の直接原因と言えるような密接かつ一体的な関係であるとは言えないので、 監査請求の対象にはならない。
6.「(ヘ)処分場の継続は、県に多大な損害を与える」について 請求人の「県が事業団の赤字を払い続けていることになる」という主張は、具体的な予防、是正の措置を検 討する対象の要件、「当該行為がなされることが相当の確実さを持って予測される場合」を示していない。 また、事業団の金融機関からの借り入れは県の財務会計上の行為ではないので、いずれも監査請求の対象と はならないものと判断。
III.監査委員の判断の根拠とその問題点
そもそも判断の前提となる事実認定が、県・事業団の主張を下敷きにしており、中立性に疑念があると言 わざるを得ません。上記の個々の判断を見ても分かるように、県・事業団の主張を聞いているようです。請 求人の法令違反との主張について、違法とはいえない根拠として唯一、「産業界、市町村の要請を背景に、 必要性のある公共関与の処分場である」ことを挙げていますが、まったく説得力を持たないものです。他の 主張に関しては、監査請求対象外としていますが、47億円にも及ぶ赤字を「良し」とする納得できる合理 的根拠は示されていません。以下、その問題点について少し詳しく見てみます。
1.公益性があるので(?)、違法ではない 同監査委員は、上記I-3の廃棄物処理法第3条違反に関して、同法第11条3項に「都道府県は、産業廃
棄物の適正な処理を確保するために都道府県が処理することが必要であると認める産業廃棄物の処理をその 業務として行なうことができる」とあること、また、同法第15条の5に、第3セクター等の方式による都道 府県が関与した廃棄物処理センター方式についての規定があることをもって、同知事が明野処分場の運営から 生じる莫大な赤字を県費で賄うことは違法ではないと判断しています。
しかし、同法15条の5に第3セクター方式の規定があるということが、産業廃棄物処理から生じる赤字を 県費で賄うことを正当化できないことは明らかです。また、同法第11条3項には「都道府県が処理すること が必要であると認める産業廃棄物」と明記されています。明野処分場の赤字はその必要性のないことの証拠で すし、同知事自身が次期処分場の産業廃棄物処理からの撤退を明言して、これを認めているのですから、この 条項に基づいて廃棄物処理法違反はないとする同監査委員の判断は間違っています。
次に、地方自治法第2条14項および地方財政法第4条1項違反に関して、同監査委員は、都道府県知事の 判断が非合理である場合、それが裁量権の逸脱および濫用になることを認めながら、1この事業はこれまで山 梨県が進めてきたものであること、2この事業に関する県費の支出は山梨県議会の承認を得ていることの二点 だけを理由に、奇妙にも「本件措置請求に係る公金の支出及び損失補償契約の締結に公益上の必要性がないと いうことはできない」と述べ、同知事の判断に非合理はないとしています。 しかし、1に関して、これまでの県の進め方に問題があったからこそ、明野処分場が稼動した直後から莫大な 赤字の問題が生じてきたのです。県の進め方に問題がなく、知事の判断に非合理がないのならば、1800万 円の黒字が稼動と同時に35億円の赤字になるようなことはあり得ません。 また、2に関して、議会の議決のあることが行政の違法性を免罪してくれないことは最高裁の判例でも認めら
れていることです。同監査委員は、このことを認識していたのにも関らず、それを無視しました。
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同監査委員は、知事の判断内容そのものに関しては、それが非合理であるのかどうかの検討をまったく行なっ ていません。
2.監査請求の対象ではない 同知事の判断内容そのものの合理・非合理を判定するためには、私たちの提示したI-1、2、4を検討し
てみることが必要不可欠です。ところが、同監査委員は、I-2の必要性の破綻に関して、私たちの主張が「独 自の見解を述べたものにすぎない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、公共関与の産業廃棄物処分場の必要性は平成5年、産業廃棄物の増大が見込まれ、その処分場の確 保が困難と判断された当時の話です。状況が大きく変化し、産業廃棄物処分場が赤字経営になるような現状に おいて、いまだ公共関与の処分場が必要だとする同知事の見解こそ非合理な「独自の見解」なのではないでし ょうか。
また、I-1は『概算収支計画』(平成20年5月)、『経営審査委員会報告書』(平成21年11月)、今回 の『収支見通し』(平成23年5月)の数字を検討することによって、同知事の判断の非合理さを述べたもの です。この問題に関して、同監査委員はそれらの試算が「財務会計上の行為の、直接の原因ということができ るような密接かつ一体的な関係であるとはいえない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、これこそ知事の判断内容に合理性があるかないかを判定するための重要な問題です。なぜならば、 これらの試算によって1800万円の黒字や36億円の赤字、そして今回の47億円の赤字が見込まれたので すから。
最後に、I-4に奇妙な仕組みに関して、同監査委員はこれを「事業団の金融機関からの借り入れは県の財 務会計上の行為ではない」として、監査請求の対象から外しています。
しかし、この仕組みは事業団の赤字経営を支え、毎年その赤字を増大させ続け、将来の莫大な赤字を私たち の税金で賄わせるためのものです。そして、この借り入れは、県が事業団に対して、金融機関が事業団に貸付 けた事業資金について損失を受けた場合、その損失を補償することによって可能になっています。この補償が なければ、誰も事業団のような自ら利益を生むことのない企業に金を貸しません。
同監査委員の判断の根拠は以上III-1、2の2点でしかありません。ここには47億円もの赤字を最終的に 県費で賄おうとするその予算執行の問題について検討しようとする姿勢がまったく伺われません。
そもそも監査委員は、地方公共団体の財務事務や事務の執行等の行政運営が、公正で合理的かつ効率的に行 われているかという観点から監査する役割を担っています。つまり住民の税金が適正に使われているかをチェ ックする者として、どこにも影響を受けない独立した執行機関として地方自治法等に規定されているのです。 さらに、地方自治法において、監査委員は、「人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理 その他行政運営に関し優れた識見を有する者」と規定されています。地方公共団体の長には、地方自治法上も、 予算の執行に関し適正を期することが厳しく求められていますが、それが確保できているかを厳正に監査する ことが監査委員の役割です。しかし、今回の監査結果は、県・事業団の従来からの言い分をそのままコピーペ ーストしたといっても言い過ぎではなく、監査委員が”優れた識見”をもって独自に調査・監査したとは思わ れず、「独立した執行機関」としての判断とはとうてい言えるものではありません。何のためにあるのか、監 査委員のあり方が根底から問われています。
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by halunet
| 2011-10-05 15:54
| 廃棄物処分場問題