2010年 08月 22日
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イスラエル軍が5月31日(月)に東地中海でガザ支援船団を襲った事件直後、イスラエルは独自の調査委員会の設置を宣言した。8月9日にはネタニヤフ首相が調査委員会に出席し、襲撃は「イスラエルの自衛のためであった」と証言している。
一方、国連も8月2日、調査委員会を設置したと発表した。イスラエルとトルコの代表も参加し、9月中旬に暫定的な報告書を事務総長に提出する予定。
以下、イギリスの著名な中東ウォッチャーであるクリス・ドイル氏の論考を2カ月が経過した今も価値があると考え、翻訳して紹介する。なお、タイトルの中にある「血の月曜日」というのは、北アイルランドで1972年に起きた「血の日曜日」事件後の調査の経緯を今回のイスラエルのやり方が想起させるということで、その類似点に着目して用いた表現である。1972年の「血の日曜日」事件については、文末の解説を参照。(編集部)
5月31日(月)国際支援船団襲撃事件に関する論考
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
■□ 追及の手を逃れるためか:イスラエルによる「血の月曜日」調査 □■
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
英国紙「ガーディアン」6月16日掲載
イスラエルによる「血の月曜日」調査
<<イスラエルは、ガザ支援船団襲撃に関して自軍を調査できるほど信用されていない。国際的、かつ独立した調査のみが信頼に足る。>>
筆者:クリス・ドイル (CAABU :アラブ・イギリス相互理解促進協議会)
ガザに向かっていた船団に対して攻撃を命じたその同じ人物が、イスラエル自らが事件の調査をすると宣言し、調査員を選び、その職権を決定している。彼は調査を開始する前から調査の結果を語っているに等しい。ビンヤミン・ネタニヤフ首相のはじけるような笑顔は、イスラエルの新聞「ハアレツ」紙が茶番だとこき下ろしているが、調査に対する圧力を買収によって封じ込めることで、ガザ支援船団拿捕行為に対する国際的な抗議を抑え込んだと、自信満々であることを物語っている。
占いの水晶玉を持たない私たちを安心させようとしてでもあろうか、ネタニヤフ氏が私たちに、こう断言してくれた。イスラエルは「最も高度な国際基準に合致する適切な自衛措置」をとった、ということがこの調査によって判明するだろうと。まあ、そのような調査から、そういう結論になるということはわかりすぎるくらい明確であろう。
このイスラエルの調査は、(1972年1月に北アイルランドのロンドンデリーで発生した)血の日曜日事件に関するウィジェリー調査の再演となるのであろうか。(ウィジェリー調査報告は、事件からわずか11週間の調査を経て、イギリス軍部隊に対して民間人の側が最初に発砲したのだ、と事件を誤って結論づけたもの。実際には軍部隊が市民活動家の行進に発砲し、14人の死者、13人の負傷者を出している。)イスラエルは、船舶への強制乗り込みなどなかったかのように、最初に攻撃を仕掛けたのは乗船していた民間人の側であるという立場をとっている。サヴィル報告(「血の日曜日事件」の再調査報告。1998年に調査団が結成され、2010年6月15日に発表された)が出されるまでに38年もの歳月がかかってしまったが、今回の地中海における「血の月曜日」の虐殺やその他の事件の真実を明らかにし、誰かがきちんと謝罪するまでに、長い年月がかかることのないよう祈るばかりである。
調査団のヤコブ・ターケル団長は、「関係者を拘束して事件の目撃証言をしてもらうことはさほど重要なことではない」と発言している。イスラエル兵士たちは調査の場でも証言しはしないであろう。民間活動家たちも、このような見せかけだけの取り調べ(kangaroo court)を信用して、すすんで協力するであろうか。するはずはないだろう。イスラエル軍兵士に殴られ、友人や仲間たちが殺されたり撃たれたりするのを目撃した活動家が、棒で打たれながら取り調べを受けて、無事に帰れるという気持ちになれるものであろうか。イスラエル当局に違法に押収された写真やビデオは、すべて無傷で戻されるだろうか。イスラエルは自分たち
で選んで、注意深く編集した映像を流すことには非常に迅速であったのだが。
トルコがこの調査を拒否したのは理解できる。信用できる調査であれば、殺害された9人のトルコ民間人の死後検分をトルコの協力を求めて一緒に行なうべきである。報道されるところでは、犠牲者のうちの1人が45センチ以内の至近距離から5回も撃たれていたことが明らかにされている。
ネタニヤフ首相は2人の外国人オブザーバーを選んでいるが、そのひとりは船団への攻撃のあったその日に「イスラエル・イニシアティブ同友会」(Friends ofIsrael initiative,http://www.friendsofisraelinitiative.org/)を設立したトリンブル卿である。彼らはこの調査結果に対して発言する権限はないであろう。しかし必要とあらば、調査委員会は妥当な措置と考えて密室会合だってできるのである。
イスラエルの行動を全面的に無罪放免にする報告書を作成するほどに、調査チームが世間知らずであるとも思われない。報告書には、取られるべきであった他の手段、作戦上の欠陥、国際法におけるグレーゾーン、学ぶべき教訓への言及が必ずやあるであろう。
もし、イスラエルの行動が合法的なものであったならば、そしてもしイスラエルの兵士たちが適切かつ合法的に行動していたというのなら、イスラエルは何を恐れることがあろうか。もし、イスラエルがイメージを回復したいと望むのなら、国連の安保理に報告するような、正式で国際的な独立した調査がなされれば、それは十分かなうであろう。その調査には、イスラエルやトルコ、そして活動家たちも含めてすべての当事者が協力し合えるよう、十分に権限が与えられるものでなくてはならないだろう。そして、違法行為がみとめられた場合は、どの当事者であれ理由を明らかにし、責任を負わねばならない。
イスラエルが自身の犯罪行為を調査したこれまでの記録は、どれをとっても衝撃的なほど貧弱なものである。サブラー・シャティーラの虐殺について調査したカハン委員会が、アリエル・シャロンには「個人的責任」があると判断したときでさえ(「個人的責任」しかないと判断したために)、シャロンはその後もベギン内閣の閣僚として居座り続けた。その後ほどなくして外務大臣となり、最終的には首相にまでなっているのである。また、1994年にヘブロンのイブラーヒーム・モスク(アブラハム・モスク)で起こった29人のパレスチナ人虐殺を調査するために設立されたシャムガル(Shamgar)委員会の場合は、軍と入植地指導者の双方をすべての犯罪行為に目をつむって無罪とし、さらには1400年近くにわたってモスクであったその由緒ある聖所を仕切りで分けるよう勧告しているのである。
イスラエルの尋問方法を調査したランダウ(Landau)委員会は、何も行動を起こさなかったばかりか、イスラエルは「ある程度の身体的圧力を行使する」権利がある、つまり私たちにわかる表現になおせば、拷問をしてもよいとさえ意見している。その報告書の未公開箇所では、いかにして拷問がなされるべきかまで概説している。拷問は今日でも続いており、最近の報道では15歳のパレスチナ人の少年が、彼の手と性器に車のバッテリー導線がつながれ、これによって拷問されるという脅迫を受けたという。
イスラエルのガザ攻撃に対する国連の調査(ゴールドストーン調査)が戦争犯罪と人道に対する犯罪にあたる証拠を発見したにもかかわらず、その調査に先立つイスラエル独自の調査からはたった1名の兵士を起訴したに過ぎなかった。しかも、盗んだクレジット・カードを使用したとの犯罪理由で。歴史は繰り返す。今回も、ある船団に乗り込んだ活動家のクレジット・カードがイスラエル治安部隊に奪われ、それがテルアビブで使用されたことが判明している。
同じように、占領地の兵士や入植者たちも罪に問われることはない。イスラエルの人権団体であるベツレム(B'Tselem)は、ここ何年間も、入植者たちがいかに犯罪を犯しても、ただの一度も起訴されていないと報告している。ヘブロンの入植指導者であるラビのモシェ・レヴィンゲルは、パレスチナ人1人を殺害したことで5カ月の服役刑を宣告されたが、4カ月に軽減されている。欧米人の犠牲者はイスラエル当局および国際メディアからより多くの注目を集めるのではあるが、正義、つまり正しい処罰がその結果行われるわけではなく、イスラエル軍兵士に殺されたレイチェル・コリー[訳註1]やトム・ハーンドール[訳註2]の家族は、愛するレイチェルやトムに何が起こったのか真実が明らかにされるのを今なお待ち続けているのである。
民間人に圧倒的な武力を行使し、拷問を行い、裁判なしに子どもたちを拘留し、他人の土地や資源を奪い、人々の家や財産を破壊し、書き出したら1ページには収まりきらないほど何度も法律や協定を犯したその政府に、自らの犯罪告発をするなど期待できるというのだろうか。
悲しいことだが、イギリスの閣僚たちは、このイスラエル独自の調査の欠陥や独立性のなさにもかかわらず、すでにこれを承認している。この見せかけだけの調査を受け入れたのは、それを引き換えにガザ地区の封鎖をうわべだけでも緩和するためではなかったかとの疑惑が浮かび上がっている。つまり、完全かつ最終的なガザ封鎖解除という、本当に求められていることではなかったという疑いがあるのである。
国際社会、とくにアメリカは十分に言うべきことを言っていない。甘やかされて育つ子どものように、イスラエルは望んだことは何でもできる。第三国にいる人々を暗殺するために、イスラエルがイギリスの偽造パスポートを使ったとしても、私たちはもはや驚かなくなっているのだ。[訳註3] この国際社会の責任の欠如がどのような影響をもたらすかは、2009年のガザ戦争に対する国連の事実調査団報告書が「さらなる深刻な犯罪につながるだけである」と強調しているとおりである。
こんな調査をまとめあげることは、ウィジェリー報告書がイギリス人にとって無駄だったように、イスラエルにとって「ピュロスの勝利」(戦いには勝つが、本当は敗退へと向かっているだけの勝利)をもたらすだけであろう。ガザ地区の封鎖は破綻しつつあり、野蛮なガザ包囲やガザの監獄化が明らかにされて、世界は驚愕した。さらに多くの支援船団が、イスラエルの小型艦隊や乗船部隊に襲いかかられることを警戒しながらもガザを目指すであろう。ハマースはガザの他の強硬派もそうであるが、ますます支持をえて強くなっている。イスラエルの指導者たちは、本当に考えるべきことを考えず、問い直すべきことを問いただしていない。パレスチナ人に対する政策や行動を徹底的に変えることでしか、イスラエル自らが望む安全と国際社会からの受け入れを実現することはできないのだが。
* 原文タイトルは「Off the hook: Israel's own Widgery inquiry into Bloody Monday(追及の手を逃れるためか:血の月曜日事件のイスラエルによるウィジェリー調査)。
1972年1 月30日(日)、公民権運動デモ行進中の北アイルランド、ロンドンデリー市民27名がイギリス陸軍パラシュート連隊第1大隊に銃撃された事件が発生した。14名死亡、13名負傷。市民は非武装で、5人は背後から射撃された。イギリス政府による調査が事件直後に行われ、裁判でイギリス軍は無罪判決を得た。このときの裁判がウィジェリー裁判だ。血の日曜日事件から26年後の1998年、トニー・ブレア政権において独立調査委員会が発足し、事件の再調査を開始した(サヴィル調査)。2010年6 月15日に発表された報告書の内容は英国に非があるとするもので、デービッド・キャメロン首相がイギリス下院において、イギリス政府として初の謝罪を行った。(ウィキペディアより)サヴィル調査の結果が発表された翌日にこの論考が掲載された。
*「血の日曜日」事件のサヴィル調査報告については
http://www.bloody-sunday-inquiry.org/
*本文の掲載はwww.guardian.co.uk/commentisfree/2010/jun/.../israel-gaza-
flotilla-inquiry
著者クリス・ドイルChris Doyleについて
エクスター大学卒業(アラビア語とイスラム研究)。1993年からロンドンにあるCAABU(アラブ・イギリス相互理解促進協会)勤務。現在同所長。
[訳註1]レイチェル・コリー Rachel Corrie(1979-2003): アメリカ人学生で国際連帯運動(ISM)。2003年3月16日、ガザ地区のラファハ難民キャンプ近くで家屋破壊を行うイスラエル軍の大型ブルドーザーに向かって抗議のため座り込んだが、ブルドーザーにひき殺され、そのまま地中に埋められ、パレスチナの救急隊員によって病院に運ばれたが、まもなく死亡した。レイチェルを記念した「レイチェル・コリー平和と正義のための基金」が設立されている。
[訳註2]トム・ハーンドール Tom Hurndall (1981-2004): イギリス人のフォトジャーナリストでISMのメンバー。2003年4月11日に子どもを助けようとしていたところ、イスラエル兵に狙撃され9カ月間の昏睡状態に陥ったまま、2004年1月13日に亡くなる。トムを記念する基金が設立されている。
[訳註3]ムハンマド・アル=マブフーフ暗殺事件: 2010年1月19日にドバイ滞在中のハマース高官、ムハンマド・アル=マブフーフ Mahmoud al-Mabhouh (1960-2010)氏が何者かに殺害された。この事件で嫌疑がかかっている十数名の人物はイギリスを含め複数の国家の偽造パスポートを使用してドバイに入国しており、暗殺を実行したと思われるイスラエルに対して国際的な非難が高まった。
翻訳:鈴木啓之
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イスラエル軍が5月31日(月)に東地中海でガザ支援船団を襲った事件直後、イスラエルは独自の調査委員会の設置を宣言した。8月9日にはネタニヤフ首相が調査委員会に出席し、襲撃は「イスラエルの自衛のためであった」と証言している。
一方、国連も8月2日、調査委員会を設置したと発表した。イスラエルとトルコの代表も参加し、9月中旬に暫定的な報告書を事務総長に提出する予定。
以下、イギリスの著名な中東ウォッチャーであるクリス・ドイル氏の論考を2カ月が経過した今も価値があると考え、翻訳して紹介する。なお、タイトルの中にある「血の月曜日」というのは、北アイルランドで1972年に起きた「血の日曜日」事件後の調査の経緯を今回のイスラエルのやり方が想起させるということで、その類似点に着目して用いた表現である。1972年の「血の日曜日」事件については、文末の解説を参照。(編集部)
5月31日(月)国際支援船団襲撃事件に関する論考
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
■□ 追及の手を逃れるためか:イスラエルによる「血の月曜日」調査 □■
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英国紙「ガーディアン」6月16日掲載
イスラエルによる「血の月曜日」調査
<<イスラエルは、ガザ支援船団襲撃に関して自軍を調査できるほど信用されていない。国際的、かつ独立した調査のみが信頼に足る。>>
筆者:クリス・ドイル (CAABU :アラブ・イギリス相互理解促進協議会)
ガザに向かっていた船団に対して攻撃を命じたその同じ人物が、イスラエル自らが事件の調査をすると宣言し、調査員を選び、その職権を決定している。彼は調査を開始する前から調査の結果を語っているに等しい。ビンヤミン・ネタニヤフ首相のはじけるような笑顔は、イスラエルの新聞「ハアレツ」紙が茶番だとこき下ろしているが、調査に対する圧力を買収によって封じ込めることで、ガザ支援船団拿捕行為に対する国際的な抗議を抑え込んだと、自信満々であることを物語っている。
占いの水晶玉を持たない私たちを安心させようとしてでもあろうか、ネタニヤフ氏が私たちに、こう断言してくれた。イスラエルは「最も高度な国際基準に合致する適切な自衛措置」をとった、ということがこの調査によって判明するだろうと。まあ、そのような調査から、そういう結論になるということはわかりすぎるくらい明確であろう。
このイスラエルの調査は、(1972年1月に北アイルランドのロンドンデリーで発生した)血の日曜日事件に関するウィジェリー調査の再演となるのであろうか。(ウィジェリー調査報告は、事件からわずか11週間の調査を経て、イギリス軍部隊に対して民間人の側が最初に発砲したのだ、と事件を誤って結論づけたもの。実際には軍部隊が市民活動家の行進に発砲し、14人の死者、13人の負傷者を出している。)イスラエルは、船舶への強制乗り込みなどなかったかのように、最初に攻撃を仕掛けたのは乗船していた民間人の側であるという立場をとっている。サヴィル報告(「血の日曜日事件」の再調査報告。1998年に調査団が結成され、2010年6月15日に発表された)が出されるまでに38年もの歳月がかかってしまったが、今回の地中海における「血の月曜日」の虐殺やその他の事件の真実を明らかにし、誰かがきちんと謝罪するまでに、長い年月がかかることのないよう祈るばかりである。
調査団のヤコブ・ターケル団長は、「関係者を拘束して事件の目撃証言をしてもらうことはさほど重要なことではない」と発言している。イスラエル兵士たちは調査の場でも証言しはしないであろう。民間活動家たちも、このような見せかけだけの取り調べ(kangaroo court)を信用して、すすんで協力するであろうか。するはずはないだろう。イスラエル軍兵士に殴られ、友人や仲間たちが殺されたり撃たれたりするのを目撃した活動家が、棒で打たれながら取り調べを受けて、無事に帰れるという気持ちになれるものであろうか。イスラエル当局に違法に押収された写真やビデオは、すべて無傷で戻されるだろうか。イスラエルは自分たち
で選んで、注意深く編集した映像を流すことには非常に迅速であったのだが。
トルコがこの調査を拒否したのは理解できる。信用できる調査であれば、殺害された9人のトルコ民間人の死後検分をトルコの協力を求めて一緒に行なうべきである。報道されるところでは、犠牲者のうちの1人が45センチ以内の至近距離から5回も撃たれていたことが明らかにされている。
ネタニヤフ首相は2人の外国人オブザーバーを選んでいるが、そのひとりは船団への攻撃のあったその日に「イスラエル・イニシアティブ同友会」(Friends ofIsrael initiative,http://www.friendsofisraelinitiative.org/)を設立したトリンブル卿である。彼らはこの調査結果に対して発言する権限はないであろう。しかし必要とあらば、調査委員会は妥当な措置と考えて密室会合だってできるのである。
イスラエルの行動を全面的に無罪放免にする報告書を作成するほどに、調査チームが世間知らずであるとも思われない。報告書には、取られるべきであった他の手段、作戦上の欠陥、国際法におけるグレーゾーン、学ぶべき教訓への言及が必ずやあるであろう。
もし、イスラエルの行動が合法的なものであったならば、そしてもしイスラエルの兵士たちが適切かつ合法的に行動していたというのなら、イスラエルは何を恐れることがあろうか。もし、イスラエルがイメージを回復したいと望むのなら、国連の安保理に報告するような、正式で国際的な独立した調査がなされれば、それは十分かなうであろう。その調査には、イスラエルやトルコ、そして活動家たちも含めてすべての当事者が協力し合えるよう、十分に権限が与えられるものでなくてはならないだろう。そして、違法行為がみとめられた場合は、どの当事者であれ理由を明らかにし、責任を負わねばならない。
イスラエルが自身の犯罪行為を調査したこれまでの記録は、どれをとっても衝撃的なほど貧弱なものである。サブラー・シャティーラの虐殺について調査したカハン委員会が、アリエル・シャロンには「個人的責任」があると判断したときでさえ(「個人的責任」しかないと判断したために)、シャロンはその後もベギン内閣の閣僚として居座り続けた。その後ほどなくして外務大臣となり、最終的には首相にまでなっているのである。また、1994年にヘブロンのイブラーヒーム・モスク(アブラハム・モスク)で起こった29人のパレスチナ人虐殺を調査するために設立されたシャムガル(Shamgar)委員会の場合は、軍と入植地指導者の双方をすべての犯罪行為に目をつむって無罪とし、さらには1400年近くにわたってモスクであったその由緒ある聖所を仕切りで分けるよう勧告しているのである。
イスラエルの尋問方法を調査したランダウ(Landau)委員会は、何も行動を起こさなかったばかりか、イスラエルは「ある程度の身体的圧力を行使する」権利がある、つまり私たちにわかる表現になおせば、拷問をしてもよいとさえ意見している。その報告書の未公開箇所では、いかにして拷問がなされるべきかまで概説している。拷問は今日でも続いており、最近の報道では15歳のパレスチナ人の少年が、彼の手と性器に車のバッテリー導線がつながれ、これによって拷問されるという脅迫を受けたという。
イスラエルのガザ攻撃に対する国連の調査(ゴールドストーン調査)が戦争犯罪と人道に対する犯罪にあたる証拠を発見したにもかかわらず、その調査に先立つイスラエル独自の調査からはたった1名の兵士を起訴したに過ぎなかった。しかも、盗んだクレジット・カードを使用したとの犯罪理由で。歴史は繰り返す。今回も、ある船団に乗り込んだ活動家のクレジット・カードがイスラエル治安部隊に奪われ、それがテルアビブで使用されたことが判明している。
同じように、占領地の兵士や入植者たちも罪に問われることはない。イスラエルの人権団体であるベツレム(B'Tselem)は、ここ何年間も、入植者たちがいかに犯罪を犯しても、ただの一度も起訴されていないと報告している。ヘブロンの入植指導者であるラビのモシェ・レヴィンゲルは、パレスチナ人1人を殺害したことで5カ月の服役刑を宣告されたが、4カ月に軽減されている。欧米人の犠牲者はイスラエル当局および国際メディアからより多くの注目を集めるのではあるが、正義、つまり正しい処罰がその結果行われるわけではなく、イスラエル軍兵士に殺されたレイチェル・コリー[訳註1]やトム・ハーンドール[訳註2]の家族は、愛するレイチェルやトムに何が起こったのか真実が明らかにされるのを今なお待ち続けているのである。
民間人に圧倒的な武力を行使し、拷問を行い、裁判なしに子どもたちを拘留し、他人の土地や資源を奪い、人々の家や財産を破壊し、書き出したら1ページには収まりきらないほど何度も法律や協定を犯したその政府に、自らの犯罪告発をするなど期待できるというのだろうか。
悲しいことだが、イギリスの閣僚たちは、このイスラエル独自の調査の欠陥や独立性のなさにもかかわらず、すでにこれを承認している。この見せかけだけの調査を受け入れたのは、それを引き換えにガザ地区の封鎖をうわべだけでも緩和するためではなかったかとの疑惑が浮かび上がっている。つまり、完全かつ最終的なガザ封鎖解除という、本当に求められていることではなかったという疑いがあるのである。
国際社会、とくにアメリカは十分に言うべきことを言っていない。甘やかされて育つ子どものように、イスラエルは望んだことは何でもできる。第三国にいる人々を暗殺するために、イスラエルがイギリスの偽造パスポートを使ったとしても、私たちはもはや驚かなくなっているのだ。[訳註3] この国際社会の責任の欠如がどのような影響をもたらすかは、2009年のガザ戦争に対する国連の事実調査団報告書が「さらなる深刻な犯罪につながるだけである」と強調しているとおりである。
こんな調査をまとめあげることは、ウィジェリー報告書がイギリス人にとって無駄だったように、イスラエルにとって「ピュロスの勝利」(戦いには勝つが、本当は敗退へと向かっているだけの勝利)をもたらすだけであろう。ガザ地区の封鎖は破綻しつつあり、野蛮なガザ包囲やガザの監獄化が明らかにされて、世界は驚愕した。さらに多くの支援船団が、イスラエルの小型艦隊や乗船部隊に襲いかかられることを警戒しながらもガザを目指すであろう。ハマースはガザの他の強硬派もそうであるが、ますます支持をえて強くなっている。イスラエルの指導者たちは、本当に考えるべきことを考えず、問い直すべきことを問いただしていない。パレスチナ人に対する政策や行動を徹底的に変えることでしか、イスラエル自らが望む安全と国際社会からの受け入れを実現することはできないのだが。
* 原文タイトルは「Off the hook: Israel's own Widgery inquiry into Bloody Monday(追及の手を逃れるためか:血の月曜日事件のイスラエルによるウィジェリー調査)。
1972年1 月30日(日)、公民権運動デモ行進中の北アイルランド、ロンドンデリー市民27名がイギリス陸軍パラシュート連隊第1大隊に銃撃された事件が発生した。14名死亡、13名負傷。市民は非武装で、5人は背後から射撃された。イギリス政府による調査が事件直後に行われ、裁判でイギリス軍は無罪判決を得た。このときの裁判がウィジェリー裁判だ。血の日曜日事件から26年後の1998年、トニー・ブレア政権において独立調査委員会が発足し、事件の再調査を開始した(サヴィル調査)。2010年6 月15日に発表された報告書の内容は英国に非があるとするもので、デービッド・キャメロン首相がイギリス下院において、イギリス政府として初の謝罪を行った。(ウィキペディアより)サヴィル調査の結果が発表された翌日にこの論考が掲載された。
*「血の日曜日」事件のサヴィル調査報告については
http://www.bloody-sunday-inquiry.org/
*本文の掲載はwww.guardian.co.uk/commentisfree/2010/jun/.../israel-gaza-
flotilla-inquiry
著者クリス・ドイルChris Doyleについて
エクスター大学卒業(アラビア語とイスラム研究)。1993年からロンドンにあるCAABU(アラブ・イギリス相互理解促進協会)勤務。現在同所長。
[訳註1]レイチェル・コリー Rachel Corrie(1979-2003): アメリカ人学生で国際連帯運動(ISM)。2003年3月16日、ガザ地区のラファハ難民キャンプ近くで家屋破壊を行うイスラエル軍の大型ブルドーザーに向かって抗議のため座り込んだが、ブルドーザーにひき殺され、そのまま地中に埋められ、パレスチナの救急隊員によって病院に運ばれたが、まもなく死亡した。レイチェルを記念した「レイチェル・コリー平和と正義のための基金」が設立されている。
[訳註2]トム・ハーンドール Tom Hurndall (1981-2004): イギリス人のフォトジャーナリストでISMのメンバー。2003年4月11日に子どもを助けようとしていたところ、イスラエル兵に狙撃され9カ月間の昏睡状態に陥ったまま、2004年1月13日に亡くなる。トムを記念する基金が設立されている。
[訳註3]ムハンマド・アル=マブフーフ暗殺事件: 2010年1月19日にドバイ滞在中のハマース高官、ムハンマド・アル=マブフーフ Mahmoud al-Mabhouh (1960-2010)氏が何者かに殺害された。この事件で嫌疑がかかっている十数名の人物はイギリスを含め複数の国家の偽造パスポートを使用してドバイに入国しており、暗殺を実行したと思われるイスラエルに対して国際的な非難が高まった。
翻訳:鈴木啓之
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| 2010-08-22 21:23
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