2010年 08月 01日
コスタリカの幻滅と現実 |
コスタリカはこれからのあるべき世界を考えるうえで指針となる国のように、何とはなしに思い込んで思っていた人も多いのではないでしょうか。私もその一人でしたが、このところ、そんな甘い認識を吹き飛ばす話をいくつか聞いたり見たり読んだりしています。コスタリカの対米依存やtax heavenの問題、それと先住民の生活を無視した環境保護政策ですが、その中でもいちばん強烈なのがブログ「キューバ研究室」にあった以下の記事でした。
http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-cc50.html
日本の憲法9条のつながりで勝手に持った幻想が崩れるだけでなく、沖縄の米軍基地の問題とも深く繋がって、なるほどといろんなものが見えてくる気がします。自国の軍隊を置かないで米軍を駐留させるという形は、狙いは日本の日米安保とそっくり二重映しになってきませんか?
コスタリカをどう評価するかという問題とは別に、日米同盟を考える上での新しい視点がこのコスタリカ・アメリカ関係から得られるような気がしました。
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米海兵隊7000人が、「軍隊のない平和・中立国家」、コスタリカに6カ月間駐留
米海兵隊7000人が、「軍隊のない平和・中立国家」、コスタリカに6カ月間駐留することになり、ラテンアメリカで物議をかもしている。7月1日コスタリカ国会は、チンチージャ政権が提出した、米海兵隊駐留許可案を賛成31、反対8の多数決で承認した。賛成は、与党の国民解放党(PLN)、自由運動党、コスタリカ革新党で、反対は、野党の市民行動党(PAC)、キリスト教社会統一党(PUSC)、拡大戦線(FA)であった。
<派遣される空母メーキングアイランド>
これまでに明らかにされたところによると、米海兵隊7000人の駐留の実態は、まさに恥ずべき、コスタリカの主権に関わる内容である。駐留の目的は、米軍が常套手段で使う、「麻薬対策」である。しかし、コスタリカが麻薬の主要な栽培地でないことは、だれも否定しない。したがって論理上は、コスタリカ領内、コスタリカ近海を通過する麻薬を取り締まることになる。
期間は、本年7月1日から6カ月間で12月末までとなっている。しかし、この駐留協定は、長期計画の「コロンビア計画」*の一環として行われており、6カ月間で海兵隊が撤退すると信じる人は少ない。これは、オスカル・アリアス前政権が米国との自由貿易協定を結んだ際に、安全保障について約束したものに沿ったものであり、同じ国民解放党のチンチージャ政権が右旋回したものではない。このことによって、コスタリカは、「米国の保護国」となったと指摘する研究者もいる。あるいは、「アリアスは、平和を裏切った」と批判する新聞もある。
*1999年クリントン政権が、コロンビアの麻薬対策とゲリラ対策という名目で打ち出した計画。現在でも続けられている。
派遣される兵力は、最新空母メーキン・アイランド(4万1000トン、乗員、将校102人、海兵隊1449人、輸送用ヘリ42機、戦闘機5機、攻撃用ヘリ6機搭載)を始め、艦船46隻、戦闘用ヘリ・戦闘機200機、病院船となっている。艦船の中には、攻撃型潜水艦、フリーダム・タイプの対潜水艦駆逐艦も含まれている。麻薬マフィアが小型潜水艦を麻薬輸送に利用しているということもいわれているが、確かではない。ましてや船積み地(コロンビアなど)や陸揚げ地(米国)でなく、公海でこれを捕捉するのは技術的に困難であろう。むしろ、果たして、「麻薬対策」にこれだけの強力な攻撃用兵力7000人の大部隊が必要であろうか。チンチージャ大統領は、「麻薬対策の名目でコスタリカを軍事化するつもりはなく、あくまで太平洋とカリブ海での両国の沿岸警備隊の共同演習だ」と述べている。しかし、真摯に中米の平和秩序を願う人は、この言葉を信じることができるであろうか。
また、これら海兵隊7000名のコスタリカへの入国、出国はまったく自由で、コスタリカのイミグレーションの管理下にはない。さらに、これらの海兵隊は、コスタリカ領内での犯罪の罪は問われず、海兵隊の制服を着て、コスタリカ領内を自由に移動し、いかなる行動も取ることができるという協定となっている。
このコスタリカへの長期的な海兵隊大部隊の配備は、昨年来続いている、ラテンアメリカにおける米国の反転攻勢政策、米軍の再配備の文脈の中で考えられなければならない。昨年米国は、ホンジュラスでクーデターを起こして、自主的なセラヤ政権を放逐し、コロンビアに新たに6つの軍事基地を、パナマに新たに11の軍事基地を認めさせ、今年になるとハイチ大地震を利用して国連軍に代わってハイチの軍事支配権を再確立し、ホンジュラスに新たに2つの軍事基地を認めさせている(詳細は、拙稿「ラテンアメリカでせめぎあう進歩と反動」雑誌『経済』2010年4月号参照)。
これらは、左翼政権といわれるベネズエラ、ボリビア、エクアドル、キューバ、ニカラグアに軍事的ににらみを聞かすとともに、緊急の場合にはこれらの国々への攻撃も可能となる配置となっていることは明白である。また対米関係で自主的な立場をとる中道左派政権に対して対米批判を弱めさせ、右派政権といわれるチリ、ペルー、コロンビア、パナマ、コスタリカ、ホンジュラス、メキシコの太平洋枢軸ラインを強化するものと、アルゼンチンの左翼理論家、アティリオ・ボロンは指摘している。
こうした事実によって、「軍隊のない平和・中立国家」コスタリカの真の姿を冷静に考えるのも良い機会であろう。
(2010年7月20日 新藤通弘)
コスタリカの実態については、参考までに拙稿下記参照。
コスタリカ評価についての若干の問題.pdf「02.11 コスタリカ評価についての若干の問題.pdf」をダウンロード
http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-cc50.html
日本の憲法9条のつながりで勝手に持った幻想が崩れるだけでなく、沖縄の米軍基地の問題とも深く繋がって、なるほどといろんなものが見えてくる気がします。自国の軍隊を置かないで米軍を駐留させるという形は、狙いは日本の日米安保とそっくり二重映しになってきませんか?
コスタリカをどう評価するかという問題とは別に、日米同盟を考える上での新しい視点がこのコスタリカ・アメリカ関係から得られるような気がしました。
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米海兵隊7000人が、「軍隊のない平和・中立国家」、コスタリカに6カ月間駐留
米海兵隊7000人が、「軍隊のない平和・中立国家」、コスタリカに6カ月間駐留することになり、ラテンアメリカで物議をかもしている。7月1日コスタリカ国会は、チンチージャ政権が提出した、米海兵隊駐留許可案を賛成31、反対8の多数決で承認した。賛成は、与党の国民解放党(PLN)、自由運動党、コスタリカ革新党で、反対は、野党の市民行動党(PAC)、キリスト教社会統一党(PUSC)、拡大戦線(FA)であった。
<派遣される空母メーキングアイランド>
これまでに明らかにされたところによると、米海兵隊7000人の駐留の実態は、まさに恥ずべき、コスタリカの主権に関わる内容である。駐留の目的は、米軍が常套手段で使う、「麻薬対策」である。しかし、コスタリカが麻薬の主要な栽培地でないことは、だれも否定しない。したがって論理上は、コスタリカ領内、コスタリカ近海を通過する麻薬を取り締まることになる。
期間は、本年7月1日から6カ月間で12月末までとなっている。しかし、この駐留協定は、長期計画の「コロンビア計画」*の一環として行われており、6カ月間で海兵隊が撤退すると信じる人は少ない。これは、オスカル・アリアス前政権が米国との自由貿易協定を結んだ際に、安全保障について約束したものに沿ったものであり、同じ国民解放党のチンチージャ政権が右旋回したものではない。このことによって、コスタリカは、「米国の保護国」となったと指摘する研究者もいる。あるいは、「アリアスは、平和を裏切った」と批判する新聞もある。
*1999年クリントン政権が、コロンビアの麻薬対策とゲリラ対策という名目で打ち出した計画。現在でも続けられている。
派遣される兵力は、最新空母メーキン・アイランド(4万1000トン、乗員、将校102人、海兵隊1449人、輸送用ヘリ42機、戦闘機5機、攻撃用ヘリ6機搭載)を始め、艦船46隻、戦闘用ヘリ・戦闘機200機、病院船となっている。艦船の中には、攻撃型潜水艦、フリーダム・タイプの対潜水艦駆逐艦も含まれている。麻薬マフィアが小型潜水艦を麻薬輸送に利用しているということもいわれているが、確かではない。ましてや船積み地(コロンビアなど)や陸揚げ地(米国)でなく、公海でこれを捕捉するのは技術的に困難であろう。むしろ、果たして、「麻薬対策」にこれだけの強力な攻撃用兵力7000人の大部隊が必要であろうか。チンチージャ大統領は、「麻薬対策の名目でコスタリカを軍事化するつもりはなく、あくまで太平洋とカリブ海での両国の沿岸警備隊の共同演習だ」と述べている。しかし、真摯に中米の平和秩序を願う人は、この言葉を信じることができるであろうか。
また、これら海兵隊7000名のコスタリカへの入国、出国はまったく自由で、コスタリカのイミグレーションの管理下にはない。さらに、これらの海兵隊は、コスタリカ領内での犯罪の罪は問われず、海兵隊の制服を着て、コスタリカ領内を自由に移動し、いかなる行動も取ることができるという協定となっている。
このコスタリカへの長期的な海兵隊大部隊の配備は、昨年来続いている、ラテンアメリカにおける米国の反転攻勢政策、米軍の再配備の文脈の中で考えられなければならない。昨年米国は、ホンジュラスでクーデターを起こして、自主的なセラヤ政権を放逐し、コロンビアに新たに6つの軍事基地を、パナマに新たに11の軍事基地を認めさせ、今年になるとハイチ大地震を利用して国連軍に代わってハイチの軍事支配権を再確立し、ホンジュラスに新たに2つの軍事基地を認めさせている(詳細は、拙稿「ラテンアメリカでせめぎあう進歩と反動」雑誌『経済』2010年4月号参照)。
これらは、左翼政権といわれるベネズエラ、ボリビア、エクアドル、キューバ、ニカラグアに軍事的ににらみを聞かすとともに、緊急の場合にはこれらの国々への攻撃も可能となる配置となっていることは明白である。また対米関係で自主的な立場をとる中道左派政権に対して対米批判を弱めさせ、右派政権といわれるチリ、ペルー、コロンビア、パナマ、コスタリカ、ホンジュラス、メキシコの太平洋枢軸ラインを強化するものと、アルゼンチンの左翼理論家、アティリオ・ボロンは指摘している。
こうした事実によって、「軍隊のない平和・中立国家」コスタリカの真の姿を冷静に考えるのも良い機会であろう。
(2010年7月20日 新藤通弘)
コスタリカの実態については、参考までに拙稿下記参照。
コスタリカ評価についての若干の問題.pdf「02.11 コスタリカ評価についての若干の問題.pdf」をダウンロード
by halunet
| 2010-08-01 10:52
| 安全保障