2010年 04月 02日
市民参加型の予算とは/ポルトアレグレ市の実験 |
http://www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/op.html「資本主義の後に来るもの」から参加型予算に関する部分の抜粋です。
別処珠樹
「ブラジル南部リオ・グランデ・ド・スール州の州都ポルトアレグレで初めて世界社会フォーラムが開かれたのは○一年だった。資本主義体制を支える政治家や企業家が集うスイス・ダボス村の 「世界経済フォーラム」 に対抗し、同じ日程で資本主義のグローバル化に反対する集会が開かれ、第一回は二万人、昨年の第二回には五万人、そして今年は一○万人が集まった。ポルトアレグレで開くことになったのは、「参加型予算」 のしくみがこれまでの地方行政と違ってきわめて民主的で、未来を先取りしているからだという。大西洋の海水も混じるパトス湖に面した人口一三○万人の地方都市にいったい何が起きたのだろう。
ブラジルでは一九六○年代から続いた軍事政権の独裁が八五年に解かれ、民政に移管された。このころから経済の悪化に苦しむポルトアレグレの地域自治連合が、予算編成に市民も加えるように要求を出していた。ポルトアレグレを中心とするブラジル南東部は首都ブラジリアから遠く、以前から自治の意識が強い。また、経済格差が大きく、多くの貧困層が生まれていたことも要求の背景にあるようだ。
八九年の市長選で労働者党のオリヴィオ・ドゥトラ候補が予算編成に市民を参加させると公約して闘った。信用しない市民も多かったが、彼は市長に選ばれた(その後、ドゥトラ市長はリオ州の知事になった)。参加型予算編成の公開会議が市内のあちこちで開かれ、参加者は自由に発言できるようになった。地区会議の参加者数を表すグラフ(図1)を見ると、半信半疑なのか初めは六○○人あまりだった参加者数が年を追うにつれて増え、二○○○年には一万四 ○○○人を超えたことを示している。ブラジルは九○年代の初めハイパーインフレに見舞われていた。人々は生活が苦しく、予算どころではなかったはずだが、この図で見るかぎり参加者は着実に増加している。
わが日本の地方議員選挙投票率(図2)はどうか。最近は六割ほどに落ち込み、人々の政治離れが加速していることがわかる。ポルトアレグレと日本とで地方自治への参加意識が違うのはどこから来るのだろうか。
さいわい、参加型予算について詳しく報告している人がいる。ブラジル出身で今はアメリカのピッツバーグ大学社会学部で教えているジャンパオロ・バイオッキさんだ。バイオッキ先生はブラジルの犯罪を調べるつもりで取材するうち、予算編成のしくみが地域に大きな影響を与えていることに気づいた。たちまちこの調査に没頭するようになり、数多くの論文を書くまでになった。バイオッキさんの説明にしたがってしくみを紹介しておこう。
会議が市民の意識を育てる
参加型予算のことをブラジルではOP(オーペー)と言う。毎年三月になると、OPの地区会議が始まる。会議といっても写真でわかるように、ジーンズをはいて行ける気楽なもので、だれでも入れる。大きな会議になると、参加者が一〇〇〇人を超えることもあるという。課題は地区として希望する予算のほか、地域フォーラムに出席する代表団を選ぶことと、去年の予算執行について反省することだ。質問に答えるため、市長や市の職員がこの会議に出席する。フォーラムに出席する代表団の人数は会議の参加者数にもとづいて一定の方式で決める。
四月からは地区会議で選ばれた代表団が地域フォーラムに出る。ポルトアレグレ市が一六の地域に分けられている。毎週あるいは隔週、OPの内容について他の会議からやってくる代表の人たち数十人と協議する。教育・交通などテーマ別に五つのフォーラムも同じように開かれる。ここでもフォーラムに市の担当職員が出席して質問に答え、意見を出す。
最後にこの地域フォーラムで評議員を二人選び、市予算評議会に送りこむ。ここでは地域別・テーマ別フォーラムを代表して出てきた四二人の評議員が隔週に集まり、出された予算案を数か月にわたって整理する。市職員の給与、全市共通の課題など、市政の運営にかかせない支出は別として、それ以外の予算の大きな部分がここで決まる。意思決定の仕方を変更するのも、評議会の仕事だ。このようにOPは、地区会議→地域フォーラム→予算評議会の三段階を経て、各地区の住民の意思を大きく活かすしくみになっている。
土地の有力者など発言力の違いによる差別がないかどうかが問題になるかもしれない。たしかに学歴や性別といった要素ではじめのうちは発言回数に差が見られる。しかし参加者は会議から学ぶようになり、次第にそのような違いが見られなくなるという。バイオッキさんはこのことを 「討論による民主主義の学校」 と呼んでいる。
OPは市民が自分の意思で地域の生活を変え、同時に自分の連帯意識を育てる方法となっているところがすばらしい。素人の市民が政治交渉を始めたことも注目される。「そちらの地域が求める予算を支持するから、こちらの予算案を支持してほしい」 と交渉する。これがうまく機能する。この実験が成功したのは、単なる実験にとどめず、行政のしくみとして制度化したところにあるとバイオッキさんは書いている。 」
「参加型民主主義が広がる
ポルトアレグレの動きは他の都市に影響を及ぼさずにはいない。同じような制度を取り入れた自治体がブラジル東南部で増えているし、インドのケララ州、南アフリカでも参加型予算が追求されている。一部の「政権担当者」が戦争予算を決めるといった制度は、これからの世界で通用しなくなるだろう。国政のレベルまで評議会形式を充実させ、人々の自治を実現することが連帯経済の狙いだ。一極集中から多極分散への変化が追及される。」
別処珠樹
「ブラジル南部リオ・グランデ・ド・スール州の州都ポルトアレグレで初めて世界社会フォーラムが開かれたのは○一年だった。資本主義体制を支える政治家や企業家が集うスイス・ダボス村の 「世界経済フォーラム」 に対抗し、同じ日程で資本主義のグローバル化に反対する集会が開かれ、第一回は二万人、昨年の第二回には五万人、そして今年は一○万人が集まった。ポルトアレグレで開くことになったのは、「参加型予算」 のしくみがこれまでの地方行政と違ってきわめて民主的で、未来を先取りしているからだという。大西洋の海水も混じるパトス湖に面した人口一三○万人の地方都市にいったい何が起きたのだろう。
ブラジルでは一九六○年代から続いた軍事政権の独裁が八五年に解かれ、民政に移管された。このころから経済の悪化に苦しむポルトアレグレの地域自治連合が、予算編成に市民も加えるように要求を出していた。ポルトアレグレを中心とするブラジル南東部は首都ブラジリアから遠く、以前から自治の意識が強い。また、経済格差が大きく、多くの貧困層が生まれていたことも要求の背景にあるようだ。
八九年の市長選で労働者党のオリヴィオ・ドゥトラ候補が予算編成に市民を参加させると公約して闘った。信用しない市民も多かったが、彼は市長に選ばれた(その後、ドゥトラ市長はリオ州の知事になった)。参加型予算編成の公開会議が市内のあちこちで開かれ、参加者は自由に発言できるようになった。地区会議の参加者数を表すグラフ(図1)を見ると、半信半疑なのか初めは六○○人あまりだった参加者数が年を追うにつれて増え、二○○○年には一万四 ○○○人を超えたことを示している。ブラジルは九○年代の初めハイパーインフレに見舞われていた。人々は生活が苦しく、予算どころではなかったはずだが、この図で見るかぎり参加者は着実に増加している。
わが日本の地方議員選挙投票率(図2)はどうか。最近は六割ほどに落ち込み、人々の政治離れが加速していることがわかる。ポルトアレグレと日本とで地方自治への参加意識が違うのはどこから来るのだろうか。
さいわい、参加型予算について詳しく報告している人がいる。ブラジル出身で今はアメリカのピッツバーグ大学社会学部で教えているジャンパオロ・バイオッキさんだ。バイオッキ先生はブラジルの犯罪を調べるつもりで取材するうち、予算編成のしくみが地域に大きな影響を与えていることに気づいた。たちまちこの調査に没頭するようになり、数多くの論文を書くまでになった。バイオッキさんの説明にしたがってしくみを紹介しておこう。
会議が市民の意識を育てる
参加型予算のことをブラジルではOP(オーペー)と言う。毎年三月になると、OPの地区会議が始まる。会議といっても写真でわかるように、ジーンズをはいて行ける気楽なもので、だれでも入れる。大きな会議になると、参加者が一〇〇〇人を超えることもあるという。課題は地区として希望する予算のほか、地域フォーラムに出席する代表団を選ぶことと、去年の予算執行について反省することだ。質問に答えるため、市長や市の職員がこの会議に出席する。フォーラムに出席する代表団の人数は会議の参加者数にもとづいて一定の方式で決める。
四月からは地区会議で選ばれた代表団が地域フォーラムに出る。ポルトアレグレ市が一六の地域に分けられている。毎週あるいは隔週、OPの内容について他の会議からやってくる代表の人たち数十人と協議する。教育・交通などテーマ別に五つのフォーラムも同じように開かれる。ここでもフォーラムに市の担当職員が出席して質問に答え、意見を出す。
最後にこの地域フォーラムで評議員を二人選び、市予算評議会に送りこむ。ここでは地域別・テーマ別フォーラムを代表して出てきた四二人の評議員が隔週に集まり、出された予算案を数か月にわたって整理する。市職員の給与、全市共通の課題など、市政の運営にかかせない支出は別として、それ以外の予算の大きな部分がここで決まる。意思決定の仕方を変更するのも、評議会の仕事だ。このようにOPは、地区会議→地域フォーラム→予算評議会の三段階を経て、各地区の住民の意思を大きく活かすしくみになっている。
土地の有力者など発言力の違いによる差別がないかどうかが問題になるかもしれない。たしかに学歴や性別といった要素ではじめのうちは発言回数に差が見られる。しかし参加者は会議から学ぶようになり、次第にそのような違いが見られなくなるという。バイオッキさんはこのことを 「討論による民主主義の学校」 と呼んでいる。
OPは市民が自分の意思で地域の生活を変え、同時に自分の連帯意識を育てる方法となっているところがすばらしい。素人の市民が政治交渉を始めたことも注目される。「そちらの地域が求める予算を支持するから、こちらの予算案を支持してほしい」 と交渉する。これがうまく機能する。この実験が成功したのは、単なる実験にとどめず、行政のしくみとして制度化したところにあるとバイオッキさんは書いている。 」
「参加型民主主義が広がる
ポルトアレグレの動きは他の都市に影響を及ぼさずにはいない。同じような制度を取り入れた自治体がブラジル東南部で増えているし、インドのケララ州、南アフリカでも参加型予算が追求されている。一部の「政権担当者」が戦争予算を決めるといった制度は、これからの世界で通用しなくなるだろう。国政のレベルまで評議会形式を充実させ、人々の自治を実現することが連帯経済の狙いだ。一極集中から多極分散への変化が追及される。」
by halunet
| 2010-04-02 23:34
| 地方自治