2009年 12月 27日
所得制限など付けない無条件で支給することの意味 |
高額所得者や働く意志のない者(いわゆるフリーライダー)にまで所得保障を行うといういうことに、国民的な同意を得ることは難しい、というのが今のメディアや政治家のベーシックインカムへの理解というか反応ではないでしょうか。これは従来の社会福祉や社会保障の前提であった家族や地域社会の実態がすっかり変わってしまったのに、そのことの重大さに気づかないことからくる無理解でしょう。ここは小沢修司さんのお話から学んだ大事なポイントだろうと思います。
資本主義社会のほころびをつぎはぎしながら、なんとか維持して行こうという従来の福祉社会はもう過去のものとなったから、ベーシックインカムによって誰でも、生を受けた者は誰でも食いっぱぐれることのない社会をどうしたら作れるのかを考え始めているのです。その時、そこにあるのは資本主義経済なのか、また違ったものなのか、まだそれは見えて来ていないのですが。
堅田さんは現在の福祉社会の限界を生活保護の実情から説明して、BIにつながる必然性を教えてくれています。BIメールニュースNo.028『捕捉率とベーシック・インカム』 2009.12.26からの転載です。
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『捕捉率とベーシック・インカム』 堅田香緒里
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「捕捉率」とは、生活保護基準以下で暮らす生活困窮者のうち、生活保護を受給している人の割合を指す。この値を通して、給付漏れすなわち「漏給」の程度を知ることができる。日本の場合、現在捕捉率に関する政府の公式統計はない(少なくとも公表されていない)が、研究者による代表的な推定捕捉率はおよそ20%である。つまり、生活保護基準以下で暮らす人のうち20%しか生活保護にアクセスできておらず、残りの80%は生活保護の給付から漏れているのである。この値は、イギリスやフランス等の諸外国における捕捉率が60〜70%であることに比して、きわめて低いと言わざるを得ない。
生活保護とは、生活保護基準以下で暮らす人のみを対象とした選別的な仕組みで、複雑怪奇なミーンズテスト(資力調査、受給資格があるかどうか審査すること)によってなされる。そのため常に「正しく」その対象を選別できるとは限らない。こうした「選別の失敗」は、「漏給」(受給資格があるのに支給されないこと)あるいは「濫給」(受給資格がないはずの人に支給すること)として現象する。
近年、貧困が社会問題化する中で、先述の捕捉率が示すような漏給という「選別の失敗」が少しずつ注目されるようになってきたが、生活保護の歴史においては、その「選別の失敗」が現代以上に注目された時期があった。1980年代のことである。
ただしその時、議論されたのは濫給の方である。暴力団の組合員等による生活保護制度の濫用報道をきっかけに、いわゆる「不正受給」が問題化されるようになったのである。このため、生活保護の「適正実施」が要請されミーンズテストがいっそう厳しくなり、これがかえって漏給の増加につながったとも言われる。ともあれ、このような不適切な生活保護給付・濫給は、現在年90億円程度あると言われているが、生活保護全体の給付規模2.6兆円からすると、それほど多いわけではない。それよりはむしろ、80%の生活困窮者が生活保護の給付から漏れていることの方が大問題である。
では、こうした漏給・濫給といった生活保護の「選別の失敗」にどのように対処したらよいだろうか。これにはおよそ2つの方向性があるだろう。一つは、ミーンズテストの精度を高め、生活保護を「適正に実施」していくことであり、もう一つは選別そのものを手放し、すべての人に普遍的に所得を保障することである。
80年代以降日本が採った戦略はむろん前者であり、後者のアイディアはベーシック・インカムの考えに連なるものである。濫給という「選別の失敗」を避けようとするために生活保護の「適正実施」政策を試みたところ、漏給というもう一つの「選別の失敗」を犯してしまったのである。この経験をふまえれば、今後私たちがどちらの戦略を採用すべきかは自ずと明らかになるであろう。
<堅田香緒里 氏 プロフィール>
埼玉県立大学助教。最近の論文「ベーシック・インカムとフェミニスト・シティズンシップ─脱商品化・脱家族化の観点から」『社会福祉学』50巻3号、「ベーシック・インカムをめぐる疑問に答える」『週刊金曜日』741号。
ベーシックインカムって何?−−女性の視点から考える入門編
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日時:2010年2月6日(土)午後2時〜4時半
会場:アートフォーラムあざみ野(男女共同参画センター横浜北)セミナールーム
http://www.artforum-azamino.jp/map/index.html
東急田園都市線「あざみ野」東口
または横浜市営地下鉄「あざみ野」1番出口より徒歩5分 定員80人
参加費:1000円(事前申し込み 800円)
☆参加費の減免もあります。事前にご相談下さい。
[提起者プロフィール]
堅田香緒里
埼玉県立大学助教。最近の論文「ベーシック・インカムとフェミニスト・シティズンシップ─脱商品化・脱家族化の観点から」『社会福祉学』50巻3号、「ベーシック・インカムをめぐる疑問に答える」『週刊金曜日』741号。
桐田 史恵
2008年反婚パレードを企画。陽のあたる毛の会メンバー。リーフレット『婚姻制度をしっていますか?』を作成
http://hinoataruke.org/
白崎 朝子
介護福祉士・ライター。著書『介護労働を生きる』(現代書館、2009年年)。『季刊福祉労働』(現代書館)、『世界』(岩波書店)、『週刊金曜日』、『シルバー新報』等に執筆
主催 フェミックス 電話03−3511−0028
FAX 03−3511-0029 メール info@femix.co.jp
資本主義社会のほころびをつぎはぎしながら、なんとか維持して行こうという従来の福祉社会はもう過去のものとなったから、ベーシックインカムによって誰でも、生を受けた者は誰でも食いっぱぐれることのない社会をどうしたら作れるのかを考え始めているのです。その時、そこにあるのは資本主義経済なのか、また違ったものなのか、まだそれは見えて来ていないのですが。
堅田さんは現在の福祉社会の限界を生活保護の実情から説明して、BIにつながる必然性を教えてくれています。BIメールニュースNo.028『捕捉率とベーシック・インカム』 2009.12.26からの転載です。
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『捕捉率とベーシック・インカム』 堅田香緒里
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「捕捉率」とは、生活保護基準以下で暮らす生活困窮者のうち、生活保護を受給している人の割合を指す。この値を通して、給付漏れすなわち「漏給」の程度を知ることができる。日本の場合、現在捕捉率に関する政府の公式統計はない(少なくとも公表されていない)が、研究者による代表的な推定捕捉率はおよそ20%である。つまり、生活保護基準以下で暮らす人のうち20%しか生活保護にアクセスできておらず、残りの80%は生活保護の給付から漏れているのである。この値は、イギリスやフランス等の諸外国における捕捉率が60〜70%であることに比して、きわめて低いと言わざるを得ない。
生活保護とは、生活保護基準以下で暮らす人のみを対象とした選別的な仕組みで、複雑怪奇なミーンズテスト(資力調査、受給資格があるかどうか審査すること)によってなされる。そのため常に「正しく」その対象を選別できるとは限らない。こうした「選別の失敗」は、「漏給」(受給資格があるのに支給されないこと)あるいは「濫給」(受給資格がないはずの人に支給すること)として現象する。
近年、貧困が社会問題化する中で、先述の捕捉率が示すような漏給という「選別の失敗」が少しずつ注目されるようになってきたが、生活保護の歴史においては、その「選別の失敗」が現代以上に注目された時期があった。1980年代のことである。
ただしその時、議論されたのは濫給の方である。暴力団の組合員等による生活保護制度の濫用報道をきっかけに、いわゆる「不正受給」が問題化されるようになったのである。このため、生活保護の「適正実施」が要請されミーンズテストがいっそう厳しくなり、これがかえって漏給の増加につながったとも言われる。ともあれ、このような不適切な生活保護給付・濫給は、現在年90億円程度あると言われているが、生活保護全体の給付規模2.6兆円からすると、それほど多いわけではない。それよりはむしろ、80%の生活困窮者が生活保護の給付から漏れていることの方が大問題である。
では、こうした漏給・濫給といった生活保護の「選別の失敗」にどのように対処したらよいだろうか。これにはおよそ2つの方向性があるだろう。一つは、ミーンズテストの精度を高め、生活保護を「適正に実施」していくことであり、もう一つは選別そのものを手放し、すべての人に普遍的に所得を保障することである。
80年代以降日本が採った戦略はむろん前者であり、後者のアイディアはベーシック・インカムの考えに連なるものである。濫給という「選別の失敗」を避けようとするために生活保護の「適正実施」政策を試みたところ、漏給というもう一つの「選別の失敗」を犯してしまったのである。この経験をふまえれば、今後私たちがどちらの戦略を採用すべきかは自ずと明らかになるであろう。
<堅田香緒里 氏 プロフィール>
埼玉県立大学助教。最近の論文「ベーシック・インカムとフェミニスト・シティズンシップ─脱商品化・脱家族化の観点から」『社会福祉学』50巻3号、「ベーシック・インカムをめぐる疑問に答える」『週刊金曜日』741号。
ベーシックインカムって何?−−女性の視点から考える入門編
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日時:2010年2月6日(土)午後2時〜4時半
会場:アートフォーラムあざみ野(男女共同参画センター横浜北)セミナールーム
http://www.artforum-azamino.jp/map/index.html
東急田園都市線「あざみ野」東口
または横浜市営地下鉄「あざみ野」1番出口より徒歩5分 定員80人
参加費:1000円(事前申し込み 800円)
☆参加費の減免もあります。事前にご相談下さい。
[提起者プロフィール]
堅田香緒里
埼玉県立大学助教。最近の論文「ベーシック・インカムとフェミニスト・シティズンシップ─脱商品化・脱家族化の観点から」『社会福祉学』50巻3号、「ベーシック・インカムをめぐる疑問に答える」『週刊金曜日』741号。
桐田 史恵
2008年反婚パレードを企画。陽のあたる毛の会メンバー。リーフレット『婚姻制度をしっていますか?』を作成
http://hinoataruke.org/
白崎 朝子
介護福祉士・ライター。著書『介護労働を生きる』(現代書館、2009年年)。『季刊福祉労働』(現代書館)、『世界』(岩波書店)、『週刊金曜日』、『シルバー新報』等に執筆
主催 フェミックス 電話03−3511−0028
FAX 03−3511-0029 メール info@femix.co.jp
by halunet
| 2009-12-27 22:52
| ベーシックインカム