2009年 11月 18日
イラク戦争なんだったの!? |
イラク戦争を告発する兵士たち=「冬の兵士」を観て
長井康平
「歴史が教えるのは、われわれが歴史を学んでいないということだ」。イラクで戦ったアメリカの帰還兵のことばである。
10月末、こぶちさわ九条の会が『冬の兵士 良心の告発』をスペース篠尾で上映した。屋外集会で帰還兵の代表がアメリカ独立宣言の「専制に反対する権利」のくだりを朗読した。「私たちは国を愛している」とも強調する。翻る数々の星条旗。だがちょっと変。そう、星条旗が全部上下さかさま。事あるごとに星条旗をかざすこの国で、この意思表示はただ事ではない。
案の定、屋外集会に先立つ告発証言集会で、名誉ある海兵隊にいた兵士は「やっていられるか、おさらばだ!」と体に付けていた隊員徽章をもぎ取って投げ捨てる。彼らの怒りと告発の意思は強烈だ。証言のいくつかを挙げる。
「はじめて人を殺した。ファットマン(肥った男)と呼ぶ相手は一発で死なずもう一発で殺した。死体を家族7人で運んで行った」
「ファルージャ包囲の時、携帯する『交戦規定(ルール)』が下着を替えるように頻繁に替わった。減速しない車はすべて敵とみなした。破壊した車を入れて代わりばんこに写真を撮った」
「大きな袋を担いできた女性を撃った。われわれに食糧を運んできたのに」
「市民を間違って殺した時のために擬装用のシャベルや武器を持って行く。死体の上にそれを置いて去る。爆弾を仕掛けるためのシャベルに見せかける」
告発証言を記録したこのDVDはジャーナリストの田保寿一さんが撮影・編集・監督したもの。実際に彼が遭遇した映像もはさまれる。戦闘ではなく、一方的な大量殺戮の生々しい現場だ。例えば、都心を米軍車両通過時に路肩爆弾が爆発する。米兵(または戦争請負人)が周囲を無差別に射撃する。
証言は続く。
「息子と一緒にいた男の首を撃ち落した」。この元州兵は除隊後PTSD(心的外傷後ストレス障害)による怒りの発作で離婚、失職、家を失い、自殺を考えた。
「基地入口で警備に当たっていた時のこと。7歳ほどの少女が近づいた。イラクのことばで『止まれ!』と命令したが応じない。射殺した。調べると体に爆弾を巻いていた。無実の少女ではない。何人かの米兵の命を救ったのだから『正当防衛』になる。父親がなぜ自分の娘に自爆攻撃をさせたのか、それを考えるとつらい。可愛い少女だった」
頭髪をモヒカン刈りした元軍曹。
「サドル・シティー全体を包囲した。貧しい地域で電気は日に2、3時間しか来ない。昼間は暑く夜間に巡回する。『外へ出るな!』と命令する。われわれは彼らに自由と水、食糧、仕事を約束したのに、市民全体をまさに戦争捕虜としたことになる。軍隊という監獄から除隊して、大学で学ぶことだけが希望だったのに、ブッシュがイラクへの増派を決めた。応じず、自殺を図り意識を失い入院した。支給されるはずの大学への給付金を受けられなかった」
告発集会を催した反戦イラク帰還兵士の会の中心人物は17歳で従軍したという。
「戦術の間違いで全市民を殺す羽目になった。テロリストとは市民を対象に人を殺す者。米軍がそれをやっている」「自分と同じ17歳のイラク人青年だったら、外国軍の占領に対してどんな行動を取るかわかる」
人間を殺すためには相手を敵と見なさねばならない。敵とは人を非人間化すること。
イスラーム教徒は聖地メッカに巡礼した尊敬すべき人をハッジと呼ぶが、アメリカ兵は敵意をむき出しにして自分ら以外をハッジと呼ぶ。
イラクの子供たちからさえ石を投げられるほど憎まれていることに驚き、イラク人への敵意をあおるマスコミに染まっていった自分たちに気づいたのだ。
「戦争は一つの世代を丸ごと非人間化した」と元州兵はつぶやく。人を人間扱いしない自らも人間でなくなる。戦争とはそういうもの。
それにしても告発する青年たちの凛とした格好よさはどこから来るのだろう。のっぴきならない状況から人間性に目覚め、逆風の中を反戦の意思を貫こうとする姿勢から伝わってくるのだ。「冬の兵士」とは、厳しい冬を耐え抜く意志を持つ人間を意味する。
これに対して、告発集会の会場の外で「戦争賛成」を唱えるグループがある。「反戦兵士の会はうそつきで裏切り者」と叫ぶ中年女性ののっぺらぼうの顔の美しくないことが強く印象に残る。
(わくわく村新聞12月号から)
日本でもイラク戦争とは何だったのかを検証しようと動き出しています。イラク自衛隊派兵違憲訴訟を全国各地で行った市民が中心となったネットワーク「イラク戦争なんだったの!?」が立ち上げられました。人が本気で友愛社会を実現するには、これは避けては通れないポイントではないでしょうか。人ごとだと思ったらそこはデットエンドです。
長井康平
「歴史が教えるのは、われわれが歴史を学んでいないということだ」。イラクで戦ったアメリカの帰還兵のことばである。
10月末、こぶちさわ九条の会が『冬の兵士 良心の告発』をスペース篠尾で上映した。屋外集会で帰還兵の代表がアメリカ独立宣言の「専制に反対する権利」のくだりを朗読した。「私たちは国を愛している」とも強調する。翻る数々の星条旗。だがちょっと変。そう、星条旗が全部上下さかさま。事あるごとに星条旗をかざすこの国で、この意思表示はただ事ではない。
案の定、屋外集会に先立つ告発証言集会で、名誉ある海兵隊にいた兵士は「やっていられるか、おさらばだ!」と体に付けていた隊員徽章をもぎ取って投げ捨てる。彼らの怒りと告発の意思は強烈だ。証言のいくつかを挙げる。
「はじめて人を殺した。ファットマン(肥った男)と呼ぶ相手は一発で死なずもう一発で殺した。死体を家族7人で運んで行った」
「ファルージャ包囲の時、携帯する『交戦規定(ルール)』が下着を替えるように頻繁に替わった。減速しない車はすべて敵とみなした。破壊した車を入れて代わりばんこに写真を撮った」
「大きな袋を担いできた女性を撃った。われわれに食糧を運んできたのに」
「市民を間違って殺した時のために擬装用のシャベルや武器を持って行く。死体の上にそれを置いて去る。爆弾を仕掛けるためのシャベルに見せかける」
告発証言を記録したこのDVDはジャーナリストの田保寿一さんが撮影・編集・監督したもの。実際に彼が遭遇した映像もはさまれる。戦闘ではなく、一方的な大量殺戮の生々しい現場だ。例えば、都心を米軍車両通過時に路肩爆弾が爆発する。米兵(または戦争請負人)が周囲を無差別に射撃する。
証言は続く。
「息子と一緒にいた男の首を撃ち落した」。この元州兵は除隊後PTSD(心的外傷後ストレス障害)による怒りの発作で離婚、失職、家を失い、自殺を考えた。
「基地入口で警備に当たっていた時のこと。7歳ほどの少女が近づいた。イラクのことばで『止まれ!』と命令したが応じない。射殺した。調べると体に爆弾を巻いていた。無実の少女ではない。何人かの米兵の命を救ったのだから『正当防衛』になる。父親がなぜ自分の娘に自爆攻撃をさせたのか、それを考えるとつらい。可愛い少女だった」
頭髪をモヒカン刈りした元軍曹。
「サドル・シティー全体を包囲した。貧しい地域で電気は日に2、3時間しか来ない。昼間は暑く夜間に巡回する。『外へ出るな!』と命令する。われわれは彼らに自由と水、食糧、仕事を約束したのに、市民全体をまさに戦争捕虜としたことになる。軍隊という監獄から除隊して、大学で学ぶことだけが希望だったのに、ブッシュがイラクへの増派を決めた。応じず、自殺を図り意識を失い入院した。支給されるはずの大学への給付金を受けられなかった」
告発集会を催した反戦イラク帰還兵士の会の中心人物は17歳で従軍したという。
「戦術の間違いで全市民を殺す羽目になった。テロリストとは市民を対象に人を殺す者。米軍がそれをやっている」「自分と同じ17歳のイラク人青年だったら、外国軍の占領に対してどんな行動を取るかわかる」
人間を殺すためには相手を敵と見なさねばならない。敵とは人を非人間化すること。
イスラーム教徒は聖地メッカに巡礼した尊敬すべき人をハッジと呼ぶが、アメリカ兵は敵意をむき出しにして自分ら以外をハッジと呼ぶ。
イラクの子供たちからさえ石を投げられるほど憎まれていることに驚き、イラク人への敵意をあおるマスコミに染まっていった自分たちに気づいたのだ。
「戦争は一つの世代を丸ごと非人間化した」と元州兵はつぶやく。人を人間扱いしない自らも人間でなくなる。戦争とはそういうもの。
それにしても告発する青年たちの凛とした格好よさはどこから来るのだろう。のっぴきならない状況から人間性に目覚め、逆風の中を反戦の意思を貫こうとする姿勢から伝わってくるのだ。「冬の兵士」とは、厳しい冬を耐え抜く意志を持つ人間を意味する。
これに対して、告発集会の会場の外で「戦争賛成」を唱えるグループがある。「反戦兵士の会はうそつきで裏切り者」と叫ぶ中年女性ののっぺらぼうの顔の美しくないことが強く印象に残る。
(わくわく村新聞12月号から)
日本でもイラク戦争とは何だったのかを検証しようと動き出しています。イラク自衛隊派兵違憲訴訟を全国各地で行った市民が中心となったネットワーク「イラク戦争なんだったの!?」が立ち上げられました。人が本気で友愛社会を実現するには、これは避けては通れないポイントではないでしょうか。人ごとだと思ったらそこはデットエンドです。
by halunet
| 2009-11-18 18:02
| テロ戦争