2009年 07月 16日
シオニズムに反対するユダヤ教のラビ(1) |
久松重光
ユダヤ人にとって、イスラエルという国家は、どんな存在なのか、イスラエルという国に抵抗しているユダヤ人は、どういう境遇にいるのか?盛んにイランを目の仇にしているイスラエルですが、それに反対しているユダヤ人の見解を知る良い資料と思ったので、現在来日中のラブキン教授の論文を訳して見ました(ゼミの資料として配られたもの)。13ページでちょっと長いです。<つづきを読む>をクリックしてごらんください。もしかしたら、誤訳の箇所もあるかも知れません。あったら、ごめんなさい。
(長文ですので、2回にわけて掲載します。はるき)
参考のために板垣さんによるラプキン教授の紹介と東京でのゼミの日程を記しておきます。
《ロシアからカナダに移り、現在モントリオール大学の歴史学教授のヤコフ・ラブキンYakov Rabkinさん(64歳)は、植民地主義のイスラエル国家を批判するユダヤ教徒として、『シオニズムに反対するユダヤ人』(秋に平凡社から翻訳が出る予定)の著者として、世界的に著名ですが、6月末から1ヶ月間の予定で来日しています。ロシアでは科学史家でしたが、現在はラビ・ユダヤ教の立場からイスラエル国家と結託し政治的に捻じ曲げられたイスラエルのユダヤ教をユダヤ教からの逸脱として根本的に批判しつつ現代世界のユダヤ人の動向をするどく論じている人で,現在の世界のもっともホットな話題の焦点にあるような人。》
イスラーム地域研究東大拠点(TIAS)パレスチナ班研究会
ヤコヴ・ラブキン教授連続セミナー
ヤコヴ・ラブキン教授(Prof. Yakov M Rabkin、モントリオール大学歴史学教授)をお招きして、下記の要領で連続セミナーを開催します。多くの皆様のご参加をお待ちします。
第一回
日時:7月16日(木)16:00〜18:00
会場:東京大学東洋文化研究所第一会議室(3F)
タイトル Is Judaism an Obstacle to Peace in
Israel/Palestine?
使用言語:英語
第二回
日時:7月19日(日)14:00〜17:00
会場:東京大学東洋文化研究所大会議室(3F)
タイトル The Use of Force in Jewish Tradition and
Zionist Practice.
使用言語:英語<日本語通訳あり>
会場の準備から出席ご希望の方は、イスラーム地域研究東大拠点グループ2事務局
iaschuto@l.u-tokyo.ac.jpにご連絡願います。
<二つのうその物語: アフメディネジャドとユダヤ人>
多くの人が、イランと交渉するためのすべての提案を非難する一方で、イランという国に反対する大規模のキャンペーンが、衰えることなく続いている。西欧のメディアは、新しいナチスのドイツ、そしてその大統領のアフメディネジャッドを新しいアドルフ・ヒトラーとして、イランのイメージを広め続けている。アフメディネジャドは、新しく受肉した悪魔となっている。:つまり彼は、ホロコーストを否定し、イスラエルを地図から消そうと脅している。これらの二つの主張は、目論まれた誤謬であり、新たな戦争に導くかもしれない。それゆえに、これらは、詳しく検証する価値がある。
ホロコーストの否定
「もしヨーロッパの国々が、彼らが、第二次大戦のおいてユダヤ人を殺害してきたと主張するならば、どうしてシオニスト体制に「ヨーロッパの一部」を提供しないのか、と言ったアフメディネジャドの言説を、BBCは引用した。「もし」というのが、明らかに挑発的なので、この言説も、その他の数多くの言説の引用も、彼の目的が、このジェノサイドを否定することにあるのではないことを暗示している。むしろ彼は、ホロコーストの記憶を、パレスチナ人の権利を強調するために、また西欧において定着している言論の自由の限界をテストするために使っている。彼は、ホロコーストを疑問視したり、からかったりすることが、若干の国々では法に触れるのに、ムハンマドの漫画がなぜ出版されるのか、いぶかしがっている。ホロコーストの漫画の品評会が、反ユダヤ主義を好むイランで組織され、ヨーロッパの反ユダヤ主義の図像の豊かな宝庫から借りたイメージを競い合っている。そのいくつかは、ホロコーストの修正や否定すらしているものと看做されうるだろう。この品評会は、多くのヨーロッパの国々では騒動を引き起こしている。このことこそまさに、イランの大統領が指摘したかったことであった。しかし、彼は、ナチスのホロコーストを否定しなかった。
彼は、またイスラエル国家の権力層が、ヨーロッパのヨーロッパ人が犯した犯罪の代わりに、パレスチナ人(ムスリム、キリスト教徒、またかなりのシオニストではないユダヤ人)から取り立てた代償に反対した。たとえ彼の異論が価値あるものにせよ、また中央ヨーロッパにユダヤの国を作るようにとの彼の提言がどんなに非現実なものであるにせよ、それは、ホロコーストの否定ではない。たとえ西欧のメディアが、彼の発言のいくつかを実際に報道したとしても、また彼のスピーチは、サイトで翻訳されて入手できるとしても、ホロコーストの否定者としてのイラン大統領のイメージは、西欧メディアでは、深く根づいてきた。
シオニズムに反対しながら、アフメディネジャドは、自分は反ユダヤ主義者ではないことを強調していた。あごひげを6つに編んだ、黒装束を纏ったラビの姿。2006年の12月にテヘランで行われたグローバル・ヴィジョンは、イランの大統領に、彼が反ユダヤ主義者でないことをあらためて表明する機会を与えた。アメリカのラビ、イエスロエル・ボヴィッド・ヴァイスによれば、アフメディネジャドは「ユダヤ人の敵ではないし、これまで一度も敵であったことはない。彼は、われわれが見る限り、神を恐れる人である。彼は、ユダヤ人を尊敬し、イランでユダヤ人を保護している。しかし、シオニストが、アフメディネジャドに敵の烙印を押し続けるならば、たまりかねて彼は、敵になるかもしれない、と警告した。」
確かにイランの公式のニュース・エージェンシーIRNAによれば、アフメディネジャドは、以下のように言ったという。「慎重で公平な人間なら、いんちきなシオニスト体制によって行われた犯罪と、占領地でのその支持者をユダヤ人のせいすることはないだろう。」
イランのユダヤ人は、イラン当局のたいした干渉もなしにユダヤ教を信奉し続けているし、彼らが何千年もの間住み続けてきた国にとどまるのを許され続けている。もしアフメディネジャドが、反ユダヤ主義者ならば、彼は、核武装した地域のスーパーパワーであるようにも、むしろ寄る辺のない力なきユダヤ人をいじめたであろう。
テヘランでの会合は、明らかな政治的アジェンダを持っていた。参加を問い合わせてきたホロコーストの生き残りの多くの代表団や、学問的な研究成果について話し合うことを望んだ研究者たちに対してヴィザの発行を拒否することによって、アフメディネジャドは、会合の焦点は、学問的なものではないことを示した。イランは、また初めてのアラブの最初のホロコースト博物館を設立した、イスラエルのアラブ人、ハアレッド・マハメッドに対してもヴィザの発給を拒んだ。それと同時に、彼は、ナチのジェノサイドについて確立された説明を否定したり、あるいは過小評価して非難されている何人かの芳しくない人物たちを世界中から招待した。
自分の政治的な目的のために、ホロコーストの記憶を利用するのは、イランの大統領が始めてではない。ドイツ史とイスラエル大衆情報についての教授である、モーシエ・ツィンマーマンによれば、「ショアーは、最もよく使われる道具である。皮肉っぽく言えば、ショアーは、大衆、とりわけイスラエル内外のユダヤ人を操るための最も有用な対象であるといわれている。イスラエルの政治では、ショアーは、非武装のユダヤ人は、死人も同然であるということをアピールするために行われる。」
人は、ホロコースト否定論者であるという非難は、格別厳しいものであると考え勝ちである。1903年のキシネヴのポグロム、17世紀のウクライナでの何十万人ものユダヤ人の虐殺、あるいは15世紀のスペインからのユダヤ人の排除などをなかったことだとする否定論者は、平面地球説愛好会のメンバーと同じように、人の注意を惹きつけることなどないであろう。ホロコーストをユニークなものにしているのは、その悲劇の切迫性や規模ばかりでなく、ツィンマーマンやその他のたくさんのユダヤ人が非難している、その記憶の政治的利用なのである。
イスラエルの前教育相は、「ホロコーストは、かつて起こり、過ぎ去ってしまった国家的狂気なのでなく、いまだ世界から過ぎ去らないイデオロギーで、今日でさえ世界は。われわれに対する犯罪を容認するかもしれない。」と陳述した。イスラエルに非常に説得的なレーゾン・デートル(存在理由)を提供するに加えて、ホロコーストは、財政援助の強力な手段になってきた。イスラエルの国会議員は、それをあからさまに書いている。
「ユダヤ人の最良の友でさえ、ヨーロッパのユダヤ民族に対して、どんな救済の手を差し伸べることも控え、死の収容所の煙突に背を向けた。・・・それゆえ、すべての自由世界は、とりわけ今日、・・・・イスラエルに対し外交的、自己防衛的な経済援助を提供することによって、その良心の呵責を示すように要求されている。」
ノーマン・フィンケルスタインの「ホロコースト産業」という本は、何十年もの間、ナチのホロコーストは、イスラエルの外交政策の手にかかって、批判を緩和し、数百万人の犠牲の集団的な相続者を自称するイスラエルという国家に対して共感を生み出すための、説得の道具として機能してきた。これは、1948年のケースでもそうであったし、とりわけいまやはっきりしているように、イスラエルの軍部指導者たちは、自分たちの勝利をまったく疑っていなかった一方で、イスラエル政府は、第二のホロコーストが差し迫っていると警告を発した1967年がそうであった。しかしこのホロコーストの記憶に訴えるということは、無駄なことではなかった。イスラエルは、1967年に近隣のアラブ国家に対する恐るべき先制攻撃を正当化するために、これを使った。このため、これまで以上のユダヤ人が、シオニズムを受け入れ、イスラエルを支持するようにもなった。
ホロコーストは、イスラエルに イスラエルのユダヤ人の究極の救済者であるばかりではなく、世界中のユダヤ人の潜在的な贖い主として現れるように呼び覚まされてきた。
彼自身ホロコーストの子孫であった、イスラエル初の宇宙飛行士が、テレジアの強制収容所にいたある若者によって描かれた月の風景の載っている「その時代の思い出」という本を携えて、アメリカのスペース・シャトルに乗ったということは、最高度の象徴的価値を持っていた。そのメッセージは、復活とヨーロッパではなくなりつつある屈辱に抗してのイスラエルに所属する誇りとなるものであった。アフメディネジャドが、《ひとつの神話》であるとみなしているのは、ナチのジェノサイドの事実ではなく、イスラエルとホロコーストとの間の関連なのである。それは、尊敬されているイスラエルの歴史家、ジーブ・ステルンヘルによる「シオニズムの作られつつある神話」という本が、シオニズムの否定ではないように、ホロコーストの否定ではないのである。
イスラエルを地図から消せ
報道によれば、イランの大統領最初に発言した彼のスピーチでは、《地図》という言葉は、出てきていない。実は、彼は、アヤトラ・ホメーニーの時代の古い反シオニズムの罵倒、つまり「イスラエルは、時のページから消えねばならない」という罵倒の焼き直しであった。「イスラエルを地図から消し去る」という流言が、世界中を駆け巡り、大衆の心に入ってきた後、反イランのキャンペーンを行っていた若干のイスラエルの煽動家たちが、その後その言葉を無言のうちに取り下げた。反イランのキャンペーンを喚起させるのにとりわけ熱心なシオニストのシンクタンクである、ICPA(公共的事件についてのエルサレム・センター)によって刊行されたイランについての最近の報告は、攻撃的な引用をホメーニーのせいにし、それを正確に翻訳しているものの、その引用は、「ジェノサイダル=大量虐殺的」であると主張している。ジェノサイダル=大量虐殺的という用語は、最近のシオニストが出す刊行物のお気に入りである。同報告書は、また「イスラエルに反対するパレスチナ人とアラブの数カ国の失敗に終わった‘大量虐殺的な’1948年の戦争」についても言及している。
公式のイラン・ニュース・エイジェンシー(IRNA)によれば、アフメディネジャドは、「パレスチナ問題を含めて、世界が直面している諸問題を、対話を通して解決する必要を要請している」、という事実があるにもかかわらず、こうした非難は、広まりつつある。彼は、続けて、「ユダヤ人、キリスト教徒、ムスリムが、投票する機会を与えられることを含めて、すべてのパレスチナ人の意思をベースにした政府を作るための自由な国民投票」という提案を行なった。このどれも、軍事行動を暗示するようには思われず、また脅迫と解することもできない。これは、なぜこのどれもが、西欧のメディアの注意を惹き付けないのかを説明しているのかもしれない。アフメディネジャドの声明が、大ニュースになる一方で、ハメネイが、もしイスラエルが、二国家裁定のためのアラブ同盟の提案を受け入れるならば、イランは、イスラエルとの関係正常化を要求する、と言っているのを見れば分かるように、実際のイランの外交関係を任されているアヤトラ・ハメネイには、ほとんど注意が払われない。
新聞連盟によれば、イラン大統領は、シオニスト体制は、ソビエトがそうであったように、じきに一掃され、人類は、自由を達成するだろう、とも語ったという。ちょうどソビエトが、平和裏に崩壊したように、彼は、イスラエルは、その内部矛盾の重圧のもとで、平和裏に瓦解することを期待している。ちょうどソビエトが、核兵器の挨拶で消えたわけではないように、イランの大統領は、武力を使ってイスラエルの消滅をもたらそうとは、言ってはいない。(イスラエルは、この地域で圧倒的な軍事的優越を享受しているので、これはぜんぜん深刻なものにはならないであろう。)彼は、ちょうどコミュニズムが、その正当性を失い開かれたように、シオニズムも、いつか消えるだろうと信じている。彼は、その同じスピーチで、以前は揺るぎないものに見えていたシャー体制の崩壊に言及している。そしてちょうどソビエトのコミュニズムの終焉とイランのイスラーム革命が、決してロシアやイランを地上の顔から消すことを意味していたわけではないように、シオニズムの終焉を求めることは、その国土と民を破壊することを意味しているわけではない。ガーディアンのヨナタン・スティールは、そのスピーチにコメントしながら、イラン大統領は、「未来に対する漠然とした願い」を表現していたに過ぎない、と結論付けた。
確かに、彼の願いは、テヘランでイラン大統領を抱擁した反シオニスト・グループ、ネトレイ・カルタのメンバーによって定期的に発せられている、「シオニスト国家の平和裏の消滅への祈り」に似ている。事実、ユダヤ教の典礼自体、神を認めず、あるいは悪魔的行為を犯す者たちに対して、むしろ攻撃的な姿勢に富んでいる。たとえば、ユダヤ教の大祭日には、われわれは、次のようなフレーズを唱える。「そして悪魔の王国は、煙のように消えなければならない。」
この場合も先と同様に、これは、文字通りには国全体を絶滅するようにとの呼びかけのように理解されるかもしれないが、真に意味していることは、悪魔の体制―どんな場所で行なわれたいかなる悪魔の行為も、消し去られるだろうということである。特別な誰かというのではなく、確実に無辜な何千という人々でもなく。
たとえ何百万人ものユダヤ人が、毎年これを唱えているとしても、彼らは、他の国々に核兵器を落とし始めることを意味しない。しかし人が、ユダヤ人、とりわけ宗教的なユダヤ人を悪魔化したがるなら、この声明を取り上げ、それを ユダヤ人はすべての国々を消し去ることを望んでいるという根拠のない非難へと翻訳することができるだろう。
実際若干のイスラエルの世俗主義者は、この祈りの中にイスラエルのユダヤ人人口の世俗的な大多数を破壊せよという呼びかけを見て取ってきた。それゆえに、ユダヤの伝統は、聖書のテキストを字義通り読むことを忌み嫌い、時としていかにこじつけのように思えるとも、ラビの解釈に信頼を置いているのである。たとえば、ラビたちは、満場一致で、「目には目を」という聖書の原則を、罪人の目を叩いて失明させるというのではなく、金銭上の償いを支払う義務である、と解釈する。ユダヤの典礼の上記のような部分は、悪魔のいない世界を見たいという欲望を表現すると同時に、強力なメタファーに信頼を置く宗教的な修辞法である。そしてこれは、まさにアフメディネジャドの声明で言われていることでもある。宗教的に霊感を受けたイランの大統領は、シオニスト体制の終焉を予言しているが、イスラエルの住民を虐殺すると脅してはいないのである。
(つづく)
ユダヤ人にとって、イスラエルという国家は、どんな存在なのか、イスラエルという国に抵抗しているユダヤ人は、どういう境遇にいるのか?盛んにイランを目の仇にしているイスラエルですが、それに反対しているユダヤ人の見解を知る良い資料と思ったので、現在来日中のラブキン教授の論文を訳して見ました(ゼミの資料として配られたもの)。13ページでちょっと長いです。<つづきを読む>をクリックしてごらんください。もしかしたら、誤訳の箇所もあるかも知れません。あったら、ごめんなさい。
(長文ですので、2回にわけて掲載します。はるき)
参考のために板垣さんによるラプキン教授の紹介と東京でのゼミの日程を記しておきます。
《ロシアからカナダに移り、現在モントリオール大学の歴史学教授のヤコフ・ラブキンYakov Rabkinさん(64歳)は、植民地主義のイスラエル国家を批判するユダヤ教徒として、『シオニズムに反対するユダヤ人』(秋に平凡社から翻訳が出る予定)の著者として、世界的に著名ですが、6月末から1ヶ月間の予定で来日しています。ロシアでは科学史家でしたが、現在はラビ・ユダヤ教の立場からイスラエル国家と結託し政治的に捻じ曲げられたイスラエルのユダヤ教をユダヤ教からの逸脱として根本的に批判しつつ現代世界のユダヤ人の動向をするどく論じている人で,現在の世界のもっともホットな話題の焦点にあるような人。》
イスラーム地域研究東大拠点(TIAS)パレスチナ班研究会
ヤコヴ・ラブキン教授連続セミナー
ヤコヴ・ラブキン教授(Prof. Yakov M Rabkin、モントリオール大学歴史学教授)をお招きして、下記の要領で連続セミナーを開催します。多くの皆様のご参加をお待ちします。
第一回
日時:7月16日(木)16:00〜18:00
会場:東京大学東洋文化研究所第一会議室(3F)
タイトル Is Judaism an Obstacle to Peace in
Israel/Palestine?
使用言語:英語
第二回
日時:7月19日(日)14:00〜17:00
会場:東京大学東洋文化研究所大会議室(3F)
タイトル The Use of Force in Jewish Tradition and
Zionist Practice.
使用言語:英語<日本語通訳あり>
会場の準備から出席ご希望の方は、イスラーム地域研究東大拠点グループ2事務局
iaschuto@l.u-tokyo.ac.jpにご連絡願います。
<二つのうその物語: アフメディネジャドとユダヤ人>
多くの人が、イランと交渉するためのすべての提案を非難する一方で、イランという国に反対する大規模のキャンペーンが、衰えることなく続いている。西欧のメディアは、新しいナチスのドイツ、そしてその大統領のアフメディネジャッドを新しいアドルフ・ヒトラーとして、イランのイメージを広め続けている。アフメディネジャドは、新しく受肉した悪魔となっている。:つまり彼は、ホロコーストを否定し、イスラエルを地図から消そうと脅している。これらの二つの主張は、目論まれた誤謬であり、新たな戦争に導くかもしれない。それゆえに、これらは、詳しく検証する価値がある。
ホロコーストの否定
「もしヨーロッパの国々が、彼らが、第二次大戦のおいてユダヤ人を殺害してきたと主張するならば、どうしてシオニスト体制に「ヨーロッパの一部」を提供しないのか、と言ったアフメディネジャドの言説を、BBCは引用した。「もし」というのが、明らかに挑発的なので、この言説も、その他の数多くの言説の引用も、彼の目的が、このジェノサイドを否定することにあるのではないことを暗示している。むしろ彼は、ホロコーストの記憶を、パレスチナ人の権利を強調するために、また西欧において定着している言論の自由の限界をテストするために使っている。彼は、ホロコーストを疑問視したり、からかったりすることが、若干の国々では法に触れるのに、ムハンマドの漫画がなぜ出版されるのか、いぶかしがっている。ホロコーストの漫画の品評会が、反ユダヤ主義を好むイランで組織され、ヨーロッパの反ユダヤ主義の図像の豊かな宝庫から借りたイメージを競い合っている。そのいくつかは、ホロコーストの修正や否定すらしているものと看做されうるだろう。この品評会は、多くのヨーロッパの国々では騒動を引き起こしている。このことこそまさに、イランの大統領が指摘したかったことであった。しかし、彼は、ナチスのホロコーストを否定しなかった。
彼は、またイスラエル国家の権力層が、ヨーロッパのヨーロッパ人が犯した犯罪の代わりに、パレスチナ人(ムスリム、キリスト教徒、またかなりのシオニストではないユダヤ人)から取り立てた代償に反対した。たとえ彼の異論が価値あるものにせよ、また中央ヨーロッパにユダヤの国を作るようにとの彼の提言がどんなに非現実なものであるにせよ、それは、ホロコーストの否定ではない。たとえ西欧のメディアが、彼の発言のいくつかを実際に報道したとしても、また彼のスピーチは、サイトで翻訳されて入手できるとしても、ホロコーストの否定者としてのイラン大統領のイメージは、西欧メディアでは、深く根づいてきた。
シオニズムに反対しながら、アフメディネジャドは、自分は反ユダヤ主義者ではないことを強調していた。あごひげを6つに編んだ、黒装束を纏ったラビの姿。2006年の12月にテヘランで行われたグローバル・ヴィジョンは、イランの大統領に、彼が反ユダヤ主義者でないことをあらためて表明する機会を与えた。アメリカのラビ、イエスロエル・ボヴィッド・ヴァイスによれば、アフメディネジャドは「ユダヤ人の敵ではないし、これまで一度も敵であったことはない。彼は、われわれが見る限り、神を恐れる人である。彼は、ユダヤ人を尊敬し、イランでユダヤ人を保護している。しかし、シオニストが、アフメディネジャドに敵の烙印を押し続けるならば、たまりかねて彼は、敵になるかもしれない、と警告した。」
確かにイランの公式のニュース・エージェンシーIRNAによれば、アフメディネジャドは、以下のように言ったという。「慎重で公平な人間なら、いんちきなシオニスト体制によって行われた犯罪と、占領地でのその支持者をユダヤ人のせいすることはないだろう。」
イランのユダヤ人は、イラン当局のたいした干渉もなしにユダヤ教を信奉し続けているし、彼らが何千年もの間住み続けてきた国にとどまるのを許され続けている。もしアフメディネジャドが、反ユダヤ主義者ならば、彼は、核武装した地域のスーパーパワーであるようにも、むしろ寄る辺のない力なきユダヤ人をいじめたであろう。
テヘランでの会合は、明らかな政治的アジェンダを持っていた。参加を問い合わせてきたホロコーストの生き残りの多くの代表団や、学問的な研究成果について話し合うことを望んだ研究者たちに対してヴィザの発行を拒否することによって、アフメディネジャドは、会合の焦点は、学問的なものではないことを示した。イランは、また初めてのアラブの最初のホロコースト博物館を設立した、イスラエルのアラブ人、ハアレッド・マハメッドに対してもヴィザの発給を拒んだ。それと同時に、彼は、ナチのジェノサイドについて確立された説明を否定したり、あるいは過小評価して非難されている何人かの芳しくない人物たちを世界中から招待した。
自分の政治的な目的のために、ホロコーストの記憶を利用するのは、イランの大統領が始めてではない。ドイツ史とイスラエル大衆情報についての教授である、モーシエ・ツィンマーマンによれば、「ショアーは、最もよく使われる道具である。皮肉っぽく言えば、ショアーは、大衆、とりわけイスラエル内外のユダヤ人を操るための最も有用な対象であるといわれている。イスラエルの政治では、ショアーは、非武装のユダヤ人は、死人も同然であるということをアピールするために行われる。」
人は、ホロコースト否定論者であるという非難は、格別厳しいものであると考え勝ちである。1903年のキシネヴのポグロム、17世紀のウクライナでの何十万人ものユダヤ人の虐殺、あるいは15世紀のスペインからのユダヤ人の排除などをなかったことだとする否定論者は、平面地球説愛好会のメンバーと同じように、人の注意を惹きつけることなどないであろう。ホロコーストをユニークなものにしているのは、その悲劇の切迫性や規模ばかりでなく、ツィンマーマンやその他のたくさんのユダヤ人が非難している、その記憶の政治的利用なのである。
イスラエルの前教育相は、「ホロコーストは、かつて起こり、過ぎ去ってしまった国家的狂気なのでなく、いまだ世界から過ぎ去らないイデオロギーで、今日でさえ世界は。われわれに対する犯罪を容認するかもしれない。」と陳述した。イスラエルに非常に説得的なレーゾン・デートル(存在理由)を提供するに加えて、ホロコーストは、財政援助の強力な手段になってきた。イスラエルの国会議員は、それをあからさまに書いている。
「ユダヤ人の最良の友でさえ、ヨーロッパのユダヤ民族に対して、どんな救済の手を差し伸べることも控え、死の収容所の煙突に背を向けた。・・・それゆえ、すべての自由世界は、とりわけ今日、・・・・イスラエルに対し外交的、自己防衛的な経済援助を提供することによって、その良心の呵責を示すように要求されている。」
ノーマン・フィンケルスタインの「ホロコースト産業」という本は、何十年もの間、ナチのホロコーストは、イスラエルの外交政策の手にかかって、批判を緩和し、数百万人の犠牲の集団的な相続者を自称するイスラエルという国家に対して共感を生み出すための、説得の道具として機能してきた。これは、1948年のケースでもそうであったし、とりわけいまやはっきりしているように、イスラエルの軍部指導者たちは、自分たちの勝利をまったく疑っていなかった一方で、イスラエル政府は、第二のホロコーストが差し迫っていると警告を発した1967年がそうであった。しかしこのホロコーストの記憶に訴えるということは、無駄なことではなかった。イスラエルは、1967年に近隣のアラブ国家に対する恐るべき先制攻撃を正当化するために、これを使った。このため、これまで以上のユダヤ人が、シオニズムを受け入れ、イスラエルを支持するようにもなった。
ホロコーストは、イスラエルに イスラエルのユダヤ人の究極の救済者であるばかりではなく、世界中のユダヤ人の潜在的な贖い主として現れるように呼び覚まされてきた。
彼自身ホロコーストの子孫であった、イスラエル初の宇宙飛行士が、テレジアの強制収容所にいたある若者によって描かれた月の風景の載っている「その時代の思い出」という本を携えて、アメリカのスペース・シャトルに乗ったということは、最高度の象徴的価値を持っていた。そのメッセージは、復活とヨーロッパではなくなりつつある屈辱に抗してのイスラエルに所属する誇りとなるものであった。アフメディネジャドが、《ひとつの神話》であるとみなしているのは、ナチのジェノサイドの事実ではなく、イスラエルとホロコーストとの間の関連なのである。それは、尊敬されているイスラエルの歴史家、ジーブ・ステルンヘルによる「シオニズムの作られつつある神話」という本が、シオニズムの否定ではないように、ホロコーストの否定ではないのである。
イスラエルを地図から消せ
報道によれば、イランの大統領最初に発言した彼のスピーチでは、《地図》という言葉は、出てきていない。実は、彼は、アヤトラ・ホメーニーの時代の古い反シオニズムの罵倒、つまり「イスラエルは、時のページから消えねばならない」という罵倒の焼き直しであった。「イスラエルを地図から消し去る」という流言が、世界中を駆け巡り、大衆の心に入ってきた後、反イランのキャンペーンを行っていた若干のイスラエルの煽動家たちが、その後その言葉を無言のうちに取り下げた。反イランのキャンペーンを喚起させるのにとりわけ熱心なシオニストのシンクタンクである、ICPA(公共的事件についてのエルサレム・センター)によって刊行されたイランについての最近の報告は、攻撃的な引用をホメーニーのせいにし、それを正確に翻訳しているものの、その引用は、「ジェノサイダル=大量虐殺的」であると主張している。ジェノサイダル=大量虐殺的という用語は、最近のシオニストが出す刊行物のお気に入りである。同報告書は、また「イスラエルに反対するパレスチナ人とアラブの数カ国の失敗に終わった‘大量虐殺的な’1948年の戦争」についても言及している。
公式のイラン・ニュース・エイジェンシー(IRNA)によれば、アフメディネジャドは、「パレスチナ問題を含めて、世界が直面している諸問題を、対話を通して解決する必要を要請している」、という事実があるにもかかわらず、こうした非難は、広まりつつある。彼は、続けて、「ユダヤ人、キリスト教徒、ムスリムが、投票する機会を与えられることを含めて、すべてのパレスチナ人の意思をベースにした政府を作るための自由な国民投票」という提案を行なった。このどれも、軍事行動を暗示するようには思われず、また脅迫と解することもできない。これは、なぜこのどれもが、西欧のメディアの注意を惹き付けないのかを説明しているのかもしれない。アフメディネジャドの声明が、大ニュースになる一方で、ハメネイが、もしイスラエルが、二国家裁定のためのアラブ同盟の提案を受け入れるならば、イランは、イスラエルとの関係正常化を要求する、と言っているのを見れば分かるように、実際のイランの外交関係を任されているアヤトラ・ハメネイには、ほとんど注意が払われない。
新聞連盟によれば、イラン大統領は、シオニスト体制は、ソビエトがそうであったように、じきに一掃され、人類は、自由を達成するだろう、とも語ったという。ちょうどソビエトが、平和裏に崩壊したように、彼は、イスラエルは、その内部矛盾の重圧のもとで、平和裏に瓦解することを期待している。ちょうどソビエトが、核兵器の挨拶で消えたわけではないように、イランの大統領は、武力を使ってイスラエルの消滅をもたらそうとは、言ってはいない。(イスラエルは、この地域で圧倒的な軍事的優越を享受しているので、これはぜんぜん深刻なものにはならないであろう。)彼は、ちょうどコミュニズムが、その正当性を失い開かれたように、シオニズムも、いつか消えるだろうと信じている。彼は、その同じスピーチで、以前は揺るぎないものに見えていたシャー体制の崩壊に言及している。そしてちょうどソビエトのコミュニズムの終焉とイランのイスラーム革命が、決してロシアやイランを地上の顔から消すことを意味していたわけではないように、シオニズムの終焉を求めることは、その国土と民を破壊することを意味しているわけではない。ガーディアンのヨナタン・スティールは、そのスピーチにコメントしながら、イラン大統領は、「未来に対する漠然とした願い」を表現していたに過ぎない、と結論付けた。
確かに、彼の願いは、テヘランでイラン大統領を抱擁した反シオニスト・グループ、ネトレイ・カルタのメンバーによって定期的に発せられている、「シオニスト国家の平和裏の消滅への祈り」に似ている。事実、ユダヤ教の典礼自体、神を認めず、あるいは悪魔的行為を犯す者たちに対して、むしろ攻撃的な姿勢に富んでいる。たとえば、ユダヤ教の大祭日には、われわれは、次のようなフレーズを唱える。「そして悪魔の王国は、煙のように消えなければならない。」
この場合も先と同様に、これは、文字通りには国全体を絶滅するようにとの呼びかけのように理解されるかもしれないが、真に意味していることは、悪魔の体制―どんな場所で行なわれたいかなる悪魔の行為も、消し去られるだろうということである。特別な誰かというのではなく、確実に無辜な何千という人々でもなく。
たとえ何百万人ものユダヤ人が、毎年これを唱えているとしても、彼らは、他の国々に核兵器を落とし始めることを意味しない。しかし人が、ユダヤ人、とりわけ宗教的なユダヤ人を悪魔化したがるなら、この声明を取り上げ、それを ユダヤ人はすべての国々を消し去ることを望んでいるという根拠のない非難へと翻訳することができるだろう。
実際若干のイスラエルの世俗主義者は、この祈りの中にイスラエルのユダヤ人人口の世俗的な大多数を破壊せよという呼びかけを見て取ってきた。それゆえに、ユダヤの伝統は、聖書のテキストを字義通り読むことを忌み嫌い、時としていかにこじつけのように思えるとも、ラビの解釈に信頼を置いているのである。たとえば、ラビたちは、満場一致で、「目には目を」という聖書の原則を、罪人の目を叩いて失明させるというのではなく、金銭上の償いを支払う義務である、と解釈する。ユダヤの典礼の上記のような部分は、悪魔のいない世界を見たいという欲望を表現すると同時に、強力なメタファーに信頼を置く宗教的な修辞法である。そしてこれは、まさにアフメディネジャドの声明で言われていることでもある。宗教的に霊感を受けたイランの大統領は、シオニスト体制の終焉を予言しているが、イスラエルの住民を虐殺すると脅してはいないのである。
(つづく)
by halunet
| 2009-07-16 09:48
| パレスチナの平和