2009年 05月 27日
「日米同盟の正体〜迷走する安全保障〜」を読む |
9条護憲派とは大分違った立場から、現実的な安全保障を、それも軍事に頼らない日本独自の外交安全保障を唱える人は少ない。孫崎享(うける)氏はそうした希少な存在の一人だろうと思う。冷静な議論が成り立ちにくいこの分野について、ボクたちが基本的に知っておくべき事柄が詰まっている。ただし著者が今年の3月まで防衛大学校教授であったということは、当然その論考に色濃く出ている。そうしたことを含めて日本人必読の書なのだろうと思う。
孫崎氏の講演会に参加した吉井ちづ子さんがMLのy-peaceに投稿した報告を、了解を得て転載します。
吉井ちづ子
先日、アジア記者クラブ主催孫崎亨氏/元外務省国際情報局長、元防衛大学校教授の講演会
「なぜ日本は戦略思考に弱いのか、迷走する安全保障政策を検証する」
を聞いた。孫崎氏は元外務省高官で、在カナダ公使、駐ウズベキスタン、駐イラン大使歴任後、02年から今年3月まで防衛大の教授だった。いわゆる「権力側」にいる人が何を書いているのだろうと興味を持って『日米同盟の正体』を読んでいた。
以下、アジア記者クラブでの孫崎氏の講演で印象に残った点をまとめてみる。
従来からの日米安保条約と、先ごろ締結された日米同盟新ガイドライン:未来のための変革と再編は根本的な違いがあるという。
ちなみに外務省の以下のHPには、内容が出ているが「仮訳」あるいは「骨子」が出ている
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/henkaku_saihen.html
具体的違いというのは
未来のための~は、国会審議を経ずに対米約束している。
国民はどこまで知り、了解したか。
国民ならまだしも、本来なら詳細を知るべき国会議員、外務省官僚がどこまで認識できているのかはなはだ疑わしいと、孫崎氏は指摘する。
外務省HPに「正式訳」が出ていない点を指摘すると、外務省職員は、このように返答したという。
あれは条約じゃないから、条約ほどの効力はない。だから仮訳のままでよい。
そもそも完全日本語訳がないものに対して首相と外務大臣が署名しているわけだ。
それって英語版だけがあって英語版に署名しているということだ。
原文をどこまで読んで、どこまで認識できているのか、、、。
だいたい、署名に至るまで、どれほどの審議があったというのだ。
国会審議がない代わりに総理大臣、外務大臣らが、アメリカ側と丁々発止の議論を展開したのか?
孫崎氏は「ノー」だという。 今回の「未来のための~」の内容をアメリカ側から一方的に提示された日本はそれを鵜呑みにしただけという。
アメリカさんに着いて行けば、ま、総合点はプラスだろう、、などと極めて安易で いい加減な幻想にに支配されているのは、一般人だけでたくさんなのに、どうもそうではないらしい。
前置きはそのくらいにして、
従来の日米安保との大きな違いは
1.対象地域の変化
極東条項が消えた。また、太平洋規定(日本国の施政の下にある領域における、 いずれか一方に対する武力攻撃が日本の平和および安全を危うくする、、、、)の縛りもなくなった。
2.今日の安全保障環境の多様な課題に対応するため、二国間で、特に自衛隊と米軍の役割、任務をそれぞれの能力に基づいて規定し、適切に貢献する。
これってすなわち、アメリカに一蓮托生で、どこまでも着いていくことになるのじゃないか。
これまでだって「日米同盟は一方的に米国が決めてきただけ」と守屋武昌元防衛次官が開き直り発言しているが、それにさらに拍車がかかるだけではなく、
自衛隊を初めとする日本の軍事協力もさらに具体的に実戦に近づかせることを
アメリカは期待をこめて、今回の調印を実現したのだろう。
一方日本側は、「仮訳」などととぼけたことを言って済まそうとしている。
3.これは先制攻撃に備えた軍事構想ではない。これは予防戦争のための準備だ。
先制攻撃は切迫した軍事攻撃を打破するための行動だが、予防戦争は何ヶ月あるいは何年も先に実現しそうな脅威を除去するための行動だ。
ということは、アメリカが気に入らないことなら何でも除去できる。
イラク戦争がそうだった。
しかしアメリカは一応、イラク戦争開始要因となった大量破壊兵器はなかった、開戦は間違っていたと見解を出している。一方日本政府はこの点についていまだに何の言及もない。
主体的に動いていないから、どっちでも関係ないのかもしれない。
「なぜ日本は戦略思考に弱いのか」については昔から言われているように、日本はこれまでアメリカに一時的に占領されたとき以外は外国から侵略され占領されたことがないから、安全保障問題については子供のようにナイーブだ、というありふれた考えとともに、古代中国の兵法書「孫子」を引用し、戦争、戦略には、謀(はかりごと)を伐つ(=敵の謀を見抜く。)が最も重要なのに、日本は従来、一番評価の低い「城を攻める」ことばかりしてきた、と指摘した。
つまり国際政治の舞台では、はかりごと=だまし=うらぎりなどは国益のための必要悪で、日本以外の国はみな、これに長けている。日本では、はかりごと=悪と考えられているので、外国から利用されてばかりいる、という理論のようだった。
これに関連して、真珠湾攻撃、トンキン湾事件、911、を挙げ、これらがいかに仕組まれたものであるか、(直接の犯人=当事者とは言わないまでも、そのような事件が引き起こされるように、あらゆる手を尽くして勃発を仕組んだ)を語った。
新ガイドラインの運用は、オバマ大統領が誕生したからといってチェンジされるものではない。
海賊対処法、恒久派兵法、など、着々と「戦争できる国」へのカウントダウンが進む中、自分のこととして、私たちはこうした問題に敏感にならなくては。
面白かったのは、外務省時代、あの(私からすれば)悪名高い、岡崎久彦国際情報局長の部下(課長)であったそうで、思想信条ではだいぶ違う点もあったが、なぜか馬が合って、気に入られていたそうだ。周囲からなんであんなハト(孫崎氏)を飼っているのかといわれても、岡崎は意に介さず、しっかりした論拠に基づく思考ができる人ならハトもタカもない、と一蹴したとか。
、、、ここで書ききれないのでぜひ孫崎さんの本を読んでみてください。
彼は決して平和運動家でも、市民派でもないけれど、
「自分は自分の立ち位置を過去から現在まで一切変えていないけれど、世の中の右傾化が進んで、気がついたらアウトサイダーにはじき出されていた。」といっていました。
孫崎氏の講演会に参加した吉井ちづ子さんがMLのy-peaceに投稿した報告を、了解を得て転載します。
吉井ちづ子
先日、アジア記者クラブ主催孫崎亨氏/元外務省国際情報局長、元防衛大学校教授の講演会
「なぜ日本は戦略思考に弱いのか、迷走する安全保障政策を検証する」
を聞いた。孫崎氏は元外務省高官で、在カナダ公使、駐ウズベキスタン、駐イラン大使歴任後、02年から今年3月まで防衛大の教授だった。いわゆる「権力側」にいる人が何を書いているのだろうと興味を持って『日米同盟の正体』を読んでいた。
以下、アジア記者クラブでの孫崎氏の講演で印象に残った点をまとめてみる。
従来からの日米安保条約と、先ごろ締結された日米同盟新ガイドライン:未来のための変革と再編は根本的な違いがあるという。
ちなみに外務省の以下のHPには、内容が出ているが「仮訳」あるいは「骨子」が出ている
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/henkaku_saihen.html
具体的違いというのは
未来のための~は、国会審議を経ずに対米約束している。
国民はどこまで知り、了解したか。
国民ならまだしも、本来なら詳細を知るべき国会議員、外務省官僚がどこまで認識できているのかはなはだ疑わしいと、孫崎氏は指摘する。
外務省HPに「正式訳」が出ていない点を指摘すると、外務省職員は、このように返答したという。
あれは条約じゃないから、条約ほどの効力はない。だから仮訳のままでよい。
そもそも完全日本語訳がないものに対して首相と外務大臣が署名しているわけだ。
それって英語版だけがあって英語版に署名しているということだ。
原文をどこまで読んで、どこまで認識できているのか、、、。
だいたい、署名に至るまで、どれほどの審議があったというのだ。
国会審議がない代わりに総理大臣、外務大臣らが、アメリカ側と丁々発止の議論を展開したのか?
孫崎氏は「ノー」だという。 今回の「未来のための~」の内容をアメリカ側から一方的に提示された日本はそれを鵜呑みにしただけという。
アメリカさんに着いて行けば、ま、総合点はプラスだろう、、などと極めて安易で いい加減な幻想にに支配されているのは、一般人だけでたくさんなのに、どうもそうではないらしい。
前置きはそのくらいにして、
従来の日米安保との大きな違いは
1.対象地域の変化
極東条項が消えた。また、太平洋規定(日本国の施政の下にある領域における、 いずれか一方に対する武力攻撃が日本の平和および安全を危うくする、、、、)の縛りもなくなった。
2.今日の安全保障環境の多様な課題に対応するため、二国間で、特に自衛隊と米軍の役割、任務をそれぞれの能力に基づいて規定し、適切に貢献する。
これってすなわち、アメリカに一蓮托生で、どこまでも着いていくことになるのじゃないか。
これまでだって「日米同盟は一方的に米国が決めてきただけ」と守屋武昌元防衛次官が開き直り発言しているが、それにさらに拍車がかかるだけではなく、
自衛隊を初めとする日本の軍事協力もさらに具体的に実戦に近づかせることを
アメリカは期待をこめて、今回の調印を実現したのだろう。
一方日本側は、「仮訳」などととぼけたことを言って済まそうとしている。
3.これは先制攻撃に備えた軍事構想ではない。これは予防戦争のための準備だ。
先制攻撃は切迫した軍事攻撃を打破するための行動だが、予防戦争は何ヶ月あるいは何年も先に実現しそうな脅威を除去するための行動だ。
ということは、アメリカが気に入らないことなら何でも除去できる。
イラク戦争がそうだった。
しかしアメリカは一応、イラク戦争開始要因となった大量破壊兵器はなかった、開戦は間違っていたと見解を出している。一方日本政府はこの点についていまだに何の言及もない。
主体的に動いていないから、どっちでも関係ないのかもしれない。
「なぜ日本は戦略思考に弱いのか」については昔から言われているように、日本はこれまでアメリカに一時的に占領されたとき以外は外国から侵略され占領されたことがないから、安全保障問題については子供のようにナイーブだ、というありふれた考えとともに、古代中国の兵法書「孫子」を引用し、戦争、戦略には、謀(はかりごと)を伐つ(=敵の謀を見抜く。)が最も重要なのに、日本は従来、一番評価の低い「城を攻める」ことばかりしてきた、と指摘した。
つまり国際政治の舞台では、はかりごと=だまし=うらぎりなどは国益のための必要悪で、日本以外の国はみな、これに長けている。日本では、はかりごと=悪と考えられているので、外国から利用されてばかりいる、という理論のようだった。
これに関連して、真珠湾攻撃、トンキン湾事件、911、を挙げ、これらがいかに仕組まれたものであるか、(直接の犯人=当事者とは言わないまでも、そのような事件が引き起こされるように、あらゆる手を尽くして勃発を仕組んだ)を語った。
新ガイドラインの運用は、オバマ大統領が誕生したからといってチェンジされるものではない。
海賊対処法、恒久派兵法、など、着々と「戦争できる国」へのカウントダウンが進む中、自分のこととして、私たちはこうした問題に敏感にならなくては。
面白かったのは、外務省時代、あの(私からすれば)悪名高い、岡崎久彦国際情報局長の部下(課長)であったそうで、思想信条ではだいぶ違う点もあったが、なぜか馬が合って、気に入られていたそうだ。周囲からなんであんなハト(孫崎氏)を飼っているのかといわれても、岡崎は意に介さず、しっかりした論拠に基づく思考ができる人ならハトもタカもない、と一蹴したとか。
、、、ここで書ききれないのでぜひ孫崎さんの本を読んでみてください。
彼は決して平和運動家でも、市民派でもないけれど、
「自分は自分の立ち位置を過去から現在まで一切変えていないけれど、世の中の右傾化が進んで、気がついたらアウトサイダーにはじき出されていた。」といっていました。
by halunet
| 2009-05-27 10:38
| 安全保障